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どくん、と心臓が一気に跳ねる。
まずい。これは非常にまずい。瀬川の計画では、彼らが動揺していることが前提だった。それが狂ってしまえば。もはや計画は計画とはよべない。ただの頭の中で只管に現実から逃げるように反射する戯言だ。要するに、この状況をなんとかすることについて何の意味ももたない。
男の足がこちらに向かって踏み出されるのが、まるでスローモーションのように感じた。ゆっくりと、しかし揺るぎない、禍々しい黒いとげのような波動を纏っているのが見えた気がした。
あれは、カウントダウンだ。唐突に瀬川の心にそんな言葉が滑り込んだ。
例えるなら、爆弾の導火線。たった今、ちょうど火がつけられたばかりの。火は着実に、瀬川に迫るこの足だ。あの足が自分に辿り着いたとき、きっと自分は死ぬ。それこそ爆弾が場所もなにも選ばずに爆発するように。
確証もなく、けれど確実にそう思った。
だめだ、このままでは死ぬ。そんなことはありえない。だめだ。だめだ。そんなのはだめだ。まだ自分はなにも成していない。だめだ。だめだ、だめだ。
あと8歩で、自分は、死ぬ。あと7歩。あと6歩。
心の中を黒い影が覆ってゆく。死ぬかもしれないという恐怖が今更になって空気に溶けだし、呼吸と一緒に体内に入って身体の主導権を握る。
それでも、ごく僅かに残った理性は未だ主導権を取り返そうと鈍くはあるものの叫ぶのをやめない。
いけない、どうにかしなければ_
「無駄だよ。君は間違えた」
目の前の男の奥から、語りかけるように声が響く。
「ごめんね、見破られたからには、生きて帰すわけにはいかない」
「おとなしく、僕らの足の下にでも埋まっておいてくれると助かるな」
瀬川にはそんな声を雑音でない意味のある言葉として処理するだけの余裕はなかった。
その間にも、カウントは続く。
あと5歩。あと4歩。
「そうだ、冥土のお土産に、良いことを教えてあげよう」
「君が死んでしまっても、寂しがることは全くない」
3歩、2歩。
1歩。
「だって、もうすぐ天国は人であふれかえるだろうからね」
「感謝してほしいな、君のために、街中に爆弾をたくさん仕掛けておいたから!」
それまでただの雑音だった声が、意味を持つ言葉として瀬川の脳内に滑りこむ。
瞬間、肩を押された。
景色が反転する。見えるのは、視界いっぱいの空。そして、さっきまでいた崖の上に立ち上る爆炎だった。
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神羅(プロフ) - 蛍火さん» すみません、もう締め切っておりまして……。それに、今は殆ど機能しておりませんので……。ボチボチ更新しなければと思うのですが、私も一応受験生でして……。すみません。 (2018年7月9日 23時) (レス) id: 57d9444f68 (このIDを非表示/違反報告)
蛍火 - お話読ませていただきました。もしも席がまだ空いているのなら、社員として、入らせていただけると嬉しい所存でございます。この小説を読もうとしたきっかけは、ラハルちゃんの紹介です。お考えの方よろしくお願い申し上げます。 (2018年7月3日 14時) (レス) id: 62a90d8188 (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 浅葱さん» 頑張ります! ちょこちょこ更新しますね (2018年3月4日 21時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
浅葱 - すごい、面白いです!更新待ってます!! (2018年3月3日 13時) (レス) id: 2921f40b7a (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 花園イリアさん» はい! おかげさまで突入できました! 不定期更新ですが、これからもよろしくお願いいたします(^-^ゞ (2017年5月5日 14時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
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