前世の記憶を持った異能探偵！ part2

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「本当は警察なんかじゃないんだから」

目の前の少年がそう発した時、睦月は正直に言って少しばかり驚いた。
今までも職業上身分を偽ることは多々してきたが、ここまで短時間で見抜かれたのは初めてではないだろうか。
最短記録更新か、と隣で鈴木＿ライルが呟いたのが口の形でわかった。目深にかぶった帽子で目元は見えないが、夕焼けに照らされた顔に微かに口が弧を描いているのが見て取れる。
そのまま口笛でも吹きそうになったので、睦月は強めに視線を飛ばした。ライルは肩を竦め、小さな名探偵の名推理に反目する。

「おいおい、冗談を言わないでくれ。私たちが警察じゃないだと？一体何を証拠にそんなことを」
「そうだよ、犯人だって言われていらいらしてるのはわかるけど、大人をからかうのは良くないね」

露草も後ろから口をはさむ。
白々しいことこの上ない。ライルに至ってはわざとやっているだろうと突っ込みたくなるような清々しいほどにテンプレートな犯人の返しだ。少年名探偵の真っ黒全身タイツもびっくりである。次は「君は探偵より脚本家が向いている」とか言い出すんじゃなかろうか。

それに事前の情報によれば、彼＿瀬川千歳は今年で20歳のはずだ。大人をからかう、という表現はこの場合適切ではないのではなかろうか。いや、あくまでこの場の雰囲気づくりのためのもので、そこに確固たる意味を求めること自体が間違っているのか。それとも大人面できる数少ない機会が巡ってきたから口から零れてしまったのか。

「・・・証拠なら、あります。今、ここに」
睦月の内心をよそに、探偵による犯人の糾弾は次の段階へ移っていた。そう言うとまるで小説やドラマに描かれた探偵たちの活躍劇のクライマックスのようだ。けれど、ちがう。
睦月は冷静に事実を確認する。

目の前の少年、瀬川千歳は睦月が今まで読んだどの探偵小説の主人公よりも、端的に言うと柔そうだった。よく目を凝らしてみると、その足は小刻みに震え、気を抜けば倒れてしまいそうだ。もし今睦月がその腱を撃ち抜けば、彼は抵抗もできずに倒れ伏すだろう。そして自重で谷底へとまっしぐらだ。勿論、異能があるので話は別だが、そういう脆さを彼は含んでいた。

声も微かではあるが、音を作り出すための声帯の震えとはまた別の種類の振動を含んでいる。考えてみれば当たり前だ。自らの意思で「その道」を歩んできた自分たちと違い、もとは睦月の嫌う偏った平和な社会でのほほんと生きてきたのだろうから。

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