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《其ノ壱 牛鬼》 ページ7

. 一文ほど流血表現を含みます。



「…人を襲うとは感心しないな」


静寂をまとう神社には、ひとつの声だけが茉鯉(まつり)の耳に届いた。その直後。

夕暮れを帯びた刀が茉鯉(まつり)の視野に入る。怪我を負わないため、女は一歩後ずさる。下駄のからり、という音が鳴って男性が女との距離を縮める。包丁の持つ手の方の手首を強引に掴み、(つか)で勢いをかざして手の甲に当てる。女が痛みから顔を歪めた。刹那、茉鯉(まつり)はこの世のものとは思えないものを目にした。

女の体からどろりとした黒い塊のようなものがが姿を表す。黒い塊はなんとか人の形を保っていたが、一部がただれている。女は静かに目を閉じて、力なく倒れる。片腕を伸ばして、男性がそっと支えた。黒い塊は茉鯉(まつり)を見据え、走ってくる。茉鯉(まつり)の眼前に立つと鋭く尖った爪を茉鯉(まつり)に振りかざす。避けなければ、という信号が脳によぎるが足に力が入らない。僅かに体を右へ動かし、避けようとしたその刹那のことだった。


茉鯉(まつり)の全身に影が落ちて、赤が石畳に飛び散る。道にはめこんだ石と石の間に赤い血が流れる。その血は茉鯉(まつり)から流れているものではなかった。黒い塊と茉鯉(まつり)の間に先ほどの男性が立ち、茉鯉(まつり)の代わりに攻撃を受けたのだと、茉鯉(まつり)は理解した。男性の黒い羽織りが視界いっぱいに広がっており、これ以上恐怖を見せないために隠しているようにも思えた。

男性は人差し指と中指の間に挟んでいた『鬼札』と書かれた札を黒い塊に貼った。黒い塊は閑静な神社に憚らず、大声を出して喚き散らした。黒い塊の周りから白煙を発し、残滓すらも残さず綺麗に消えてしまった。茉鯉(まつり)が言葉を失っていると、男性は顔だけ茉鯉(まつり)の方へ振り返った。


「…だからあれほど早く帰れと言ったのだが」


耳に残る中性的な声、それから橙色の陽光を滲ませた黒い髪、朱色の空と類似する赤い瞳。茉鯉(まつり)はその人物を知っている。


「あり、がとう、ございます」


一段落ついたのだと悟ると、目の縁から涙が零れる。涙は頬を濡らして、顎まで伝う。手の甲に雫が垂れて、あとは万斛のごとく声を押し殺して泣いた。足に限らず重かった体が一気に軽くなったような気がした。



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設定キーワード:和風 , オリジナル , 怪奇物   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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いふ(プロフ) - 幻想作家さん» アドバイス感謝いたします…!私は昔の言葉に弱いので、そういうアドバイスなどは大変ありがたいものです!応援誠に感謝いたします。これからも学びながら書いていくのでお見苦しい所があるかもしれませんが、頑張らせていただきます! (1月17日 22時) (レス) id: ca7a82974a (このIDを非表示/違反報告)
幻想作家 - 指慣らしはフィンガースナップといいますが和風なら「指を鳴らす」だけで大概は伝わるでしょう。オリジナルでここまで細かく面白いものは中々作れないと思います。ブックマークするので頑張ってください。 (1月17日 20時) (レス) id: ab3b389dea (このIDを非表示/違反報告)
いふ(プロフ) - 人見さん» ぴ゛ゃ!?コメントいただくとは思っても見なかったのでリアルで変な声が出てしまいました…。ご感想ありがとうございます!マイマイ並みの更新速度ですが、頑張らさせていただきます!! (1月14日 16時) (レス) id: ca7a82974a (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 「〜しやがれ」とか些細な表現がコミカルで面白いです!更新頑張ってください!応援しています (1月14日 13時) (レス) id: 882ef10c58 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:いふ | 作成日時:2021年1月5日 17時

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