《其ノ弐 狐憑き》 ページ17
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藍色の星空は薄い雲で一面覆われ、生憎と踊る星達は見えない。今夜は満月だというのに、灰の雲が月の輪郭をかすませている。凛とした静けさは杵築町によく似合っている。地にはめこまれた石、僅かに煌めく金色の光は少女の逃げる道を教えているように見えた。頬に冷たい何かが伝って、それは石畳に黒い染みを滲ませる。そこで、ようやく少女は自分が泣いていることに気が付いたのだ。拭うことも擦ることもせずに、顔を上げる。うすらと満月が雲から顔を出す。石畳は月明かりによって照射され、白い輝きを帯びた。目を伏せかけたそのとき、自分の名前を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえてくる。そこで、少女は閉じかけていた目をはっと開く。止めていた足を無理矢理前へ前へと動かし、目的地もなくふらふらと適当な場所を目指した。
ふとしたとき、杵築町しじまに支配される中、赤く点滅する警報機が耳に入る。意識と白い靴が自然と警報機の方へと向く。足早に駆けて警報機の元へ足を進める。線路の周りには遮断機が既に下りており、遮断機を潜らない限り線路へ入り込むことは不可能だろう。少女の回らない頭には一つの案が浮かぶ。今ここで諦めればもう頑張らなくて済むのではないか?人の期待に応えなくて済むのではないだろうか。警報機の音に耳を傾けながら判断に迷っていると、靴の擦れる音、近づく遮断機に気が付く。それでも少女は動くのをやめず、そっと遮断機に手をかけた。
「さようなら」
あらわになった月が澄んだ声を照らし、少女を視界に捉えた狐が密かに微笑んだ。
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いふ(プロフ) - 幻想作家さん» アドバイス感謝いたします…!私は昔の言葉に弱いので、そういうアドバイスなどは大変ありがたいものです!応援誠に感謝いたします。これからも学びながら書いていくのでお見苦しい所があるかもしれませんが、頑張らせていただきます! (1月17日 22時) (レス) id: ca7a82974a (このIDを非表示/違反報告)
幻想作家 - 指慣らしはフィンガースナップといいますが和風なら「指を鳴らす」だけで大概は伝わるでしょう。オリジナルでここまで細かく面白いものは中々作れないと思います。ブックマークするので頑張ってください。 (1月17日 20時) (レス) id: ab3b389dea (このIDを非表示/違反報告)
いふ(プロフ) - 人見さん» ぴ゛ゃ!?コメントいただくとは思っても見なかったのでリアルで変な声が出てしまいました…。ご感想ありがとうございます!マイマイ並みの更新速度ですが、頑張らさせていただきます!! (1月14日 16時) (レス) id: ca7a82974a (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 「〜しやがれ」とか些細な表現がコミカルで面白いです!更新頑張ってください!応援しています (1月14日 13時) (レス) id: 882ef10c58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いふ | 作成日時:2021年1月5日 17時