愛とか恋とか《短編集》【 sh 】 (ページ32)

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『俺はこのくらいが好きだけど』
「……摘むな！」
『怒んなよ』

怒ってるわけじゃない。
誕生日を覚えてくれていたことに安堵しているんだ。
全く可愛げのない発言も、紫耀によって溶かされていく。
毎日会えるわけじゃないし、連絡だってマメじゃない。
珍しく返してくれるLINEだって、ただの気まぐれ。
数分後には既読すら付かなくなるし、今回だって事後報告。
向かってるとか、もうすぐ着くよとか、もっとあるじゃん。
フットワーク軽いくせに肝心なところが抜けている。

そんなところが好きだからもう重症だけど。

「タルトじゃなきゃ食べない」
『イチゴたっぷりのな』
「……うん」

私の好みをちゃんと理解してるところも好き。
甘さ控えめの、生地は固め。質より量。イチゴたっぷりだったらなんでもいい。
変なこだわりも、だるいって言いながら受け止めてくれる紫耀が好き。

『ほんと美味そうに食うな？』
「美味しい」
『俺も食っていい？』
「ん、お皿持ってくる」
『んーん、違くて、』
「え？」

『ここ』って言いながら私の唇に紫耀の親指が触れた。
状況を理解できずにいると、みるみるうちに紫耀の耳が赤くなる。
次第に私まで緊張して、瞬きの回数が異常に増えた。

『瞬きしすぎ』
「だって、」
『許可取んのもおかしいか』
「そ、そうだよ」

キスなんて何度もしてるはずなのに。
初々しいカップルのように、２人でたじろいで見つめ合う。
ゆっくりと重なった視線から、どちらからともなく引き寄せ合った唇。
いつになく甘いのはイチゴのせい？それとも、？

『誕生日おめでと』
「ありがと、」
『もっかいする？』
「うん、」

確実に紫耀のせいだ。

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