神社:うらたぬき ページ26
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初めて、彼女を見たのは、寒い寒い冬の日だった。
彼女は、誰も来ないような街外れの神社の境内で、1人、ひっそりと涙を流していて。俺にはそれが、とてもきれいに見えた。
「あ…。」
「すみません、お参りですか?すぐに移動します!!」
俺の声に反応して、近くにあった小さなカバンを手に取り、立ち上がった彼女に何て言えばいいか分からず、どいてくれた境内に向かって、軽くお参りをした。
「あ、いない…。」
それから半月くらい、仕事が忙しくて、あの神社には行けてなかった。丁度時間が出来た日、彼女はまたいるのだろうか。と考えて足をまた運んだ。
「あ、この前の…。」
「どうも…。」
彼女はまた、境内に座っていた。ただし、泣いてはいなくて、少し安心した。
「お参り、ですか?」
「あ、いえ。近くを通ったので、少し。」
我ながら苦しい言い訳だと思ったが、彼女は納得したのか上げかけた腰をまた境内に下ろした。
「…座ります?」
「…え、」
寒いですし、ここなら屋根がありますから。なんて言う変わった彼女をもう少し知りたくなって、じゃあ、なんて言って間を空けて彼女の隣に腰を下ろした。
「ここには、よく来るんですか?」
「はい…。何かあったらここに駆け込む癖があって…。近所なもので。」
「そう、なんですね。すみません。なんかお邪魔しちゃって…。」
「いえ、そんな…。」
何か話題を、と考えたものの、気の利いた話題なんて見つからず、ありきたりな質問をする。すぐに途切れる会話に、視線を彷徨わせていると、視界の端に白いものが見えた。
「雪…。」
「降って、きましたね…。」
ちらちらと降ってきた雪はだんだんと増えていく。
「あの、傘、お持ちですか?」
「あ、いや、」
話しかけられると思っていなかったから、何ともまぬけな声が出る。坂田辺りが一緒にいたら多分からかわれてるな今のは。
「良ければ使ってください。」
そういって、彼女がカバンから出してきたのは一本の折り畳み傘。シンプルで男女どちらが使っても違和感のないものだった。
「え、でも…。」
「私、家、近所なので。」
傘を手渡したと思ったら立ち上がった彼女に思わず口が動いた。
「ま、また、来てもいいですか?」
ぱちくり、と目を開いた彼女はすぐに笑顔になって頷いてくれた。
今度は傘とお菓子をもって会いに行く。
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蒼(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!好きだと言っていただけてテンション上がってます!ゆきさんもお身体にはお気をつけてくださいね! (2018年12月3日 8時) (レス) id: 6ff2611221 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - スイ(さぶ)さん» 分かりました。坂田さんですね!せっめいありがとうございます、助かります。早めに書き上げられるよう頑張ります! (2018年12月3日 8時) (レス) id: 6ff2611221 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - こういう短編好きです…!!(ほとんどコメントしたこと無いので、ちゃんとした日本語になってるか心配です) 読んでて楽しいので、次も楽しみにしてます!! 寒くなってきてるので、お身体には充分お気をつけください…!応援してます!! (2018年12月2日 18時) (レス) id: e3b7ecda00 (このIDを非表示/違反報告)
スイ(さぶ)(プロフ) - ありがとうございます!!坂田さんで、試験前の勉強会をしてて途中で告白する…みたいなのって可能でしょうか…。語彙力なくてすみません。幼馴染だとかの設定は作者様が書きやすいようにして頂いて全然大丈夫です!よければお願いします… (2018年12月2日 0時) (レス) id: 9fca0c060a (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - スイ(さぶ)さん» 楽しんでいただけて凄く嬉しいです!ぜひぜひお楽しみください(あってるのか?)リクエスト嬉しいです、いつでも受け付けております!お待ちしています。 (2018年11月29日 22時) (レス) id: 6ff2611221 (このIDを非表示/違反報告)
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