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179.しゃぼん玉 ページ29

 その夜、俺はAの夢を見た。





 彼女は桔梗が咲き誇る草原の上で

 白詰草に桔梗の花を絡めた花冠を作っている。

 
 真剣な横顔は夢の中でも相も変わらず綺麗で…

 思わず「A」と声をかけた。


 名前を呼ぶとあたりをきょろきょろと見回して、

 俺に気づき、顔いっぱいに笑顔を咲かせた。


 その笑顔を見た途端に、

 胸が掴まれたようにきゅうっと苦しくなって、

 俺はまだ君に…いや、また君に恋をしているのだと

 その痛みが教えてくれた。


 Aのそばに駆け寄ると、

 彼女が俺の腕を掴んだので、その場に腰を下ろす。


「綺麗な花冠だな!とても上手にできている!」


 俺がそう言うと、

 彼女は黙って微笑むだけで何も言わない。


「A?」


 今度は名を呼んでもこちらを向いてくれない。

 自分の声が膜に包まれたようにこもって

 しゃぼん玉のようにふわふわと浮かぶだけで、

 彼女に届く前に弾けて消えていく。


「A…!A!A!!」


 彼女は尚も花冠を夢中になって作っている。

 すると、突然その手を止めて立ち上がった。


「A…?どうした?」


 俺の言葉は届かない。

 俺のことも…見えていない?


 彼女は何かに驚くと、持っていた花冠を落とし、

 今にも泣き出しそうな表情で駆け出した。


「…待ってくれ!行かないでくれ!」


 俺は立ち上がるとAを必死に追いかけた。

 いくら走っても、走っても、彼女には追いつかなくて…


 ツーっと頬を伝う涙で目が覚めた。

 


「…夢。」



 夢の中でさえも、

 君をこの腕で抱き締めることができないのか。

 ひどく残酷だと思った。




 もうすぐ夜明けだ。

 白んできた空には陽に照らされた雲が

 いくつか浮かんでいる。




 なあ、A。

 俺は自分のすべきことに全力を注いで生きている。

 俺の周りには同じ志を持った仲間がいて、

 理解し合える同僚もいる。

 大切な父や弟もいる。


 幸せだと思う。本当に。

 幸せに暮らしている。





 でも、それでも、やはり君に会いたい。







 君に会いたい。
 

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 小鈴さん» 感想ありがとうございます!最後までお読みいただき光栄です。物語は読んでもらってこそ生きるものだと私は思うので、この作品を見つけてくださり、そして読んでくださったこと、本当にありがとうございます! (2022年11月15日 18時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。途中からずっと、涙なしでは見られませんでした。この作品の主人公と煉獄さんに出会えて本当に良かったです! (2022年11月14日 22時) (レス) @page50 id: 97399e389e (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。主人公に感情移入し、物語に入ってもらってこそ、この小説の醍醐味と思い作っていたので、大変光栄です!あたたかいコメントにいつも励まされておりました。ありがとうございました! (2022年7月16日 7時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 読了が遅くなりました。お疲れ様でした。長らく愉しませて頂きました。現し世でなくても、ハッピーエンドとは!こういう纏め方もあるのかと感心です。彼女の気持ちに入り込んでいたため、逢いたいけど早いよと涙しました。 (2022年7月15日 16時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!起承転結の「転」は恐らく読者様の予想を超えるものになってしまったかもしれません。しかし、美桜さんのように嬉しいお言葉をいただけると、作者として本当に幸せです♡最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2022年7月10日 15時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年6月12日 13時

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