淡紅舞う 4【煉獄杏寿郎】

167.心を燃やして ページ17

　Aが亡くなる前の夜。


　いつものように、

　炎柱邸で布団を並べて眠りにつこうとしていた。


　あの日は激務だったため、いつになく疲れてしまい、

　横になるとすぐに瞼が落ちていった。


　寝返りを打ってAに背を向けた時、

　後ろから微かな声が聞こえたのを微睡(まどろみ)の中で覚えている。



「杏寿郎…愛してる。」



　Aはそう言いながら俺の背中を服を掴んだ。

　くいっと引かれる感覚があった。

　あまりの眠さに、俺は返事をしたかも今となっては

　覚えていない…


　彼女は自分の布団から抜け出すと、

　俺のそばに擦り寄って、背後から抱きついた。


　その温もりが心地よくて、俺は眠りに落ちてしまった。




　こんなことになるのなら、

　あの夜、君を強く抱きしめれば良かった。

　もう十分だという程に、耳元で愛を囁けば良かった。


　君が飽くほど口づけをして、

　夜が明けるまで何度も抱いて、

　Aが俺の全てだということを、

　愛してやまないことを言葉や行動で伝えれば良かった。


　


　しかし、もう彼女は戻ってはこない。

　やり直すことなど出来はしない。



　それなら残された俺に出来ることは何か？


　最後にAと交わした約束を叶える他ないだろう。
　

　彼女のできなかった分まで、鬼から人を守ること。

　心を燃やして、まっすぐに生きること。


　俺は天に向かって右手の小指を差し出す。


「"ゆびきりげんまん"だからな。必ず守る。」




　俺は俺の責務を全うする。



　母やAと約束したことを胸に

　前を向いて生きていく。


　灯された心の炎は、

　誰よりも熱く、

　消えることなく絶え間なく燃え続けている。

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