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34.思い馳せ、生きる ページ34

湯浴みを済ませ、


 夕餉をいただいた私は、


 手持ちの行燈に灯火をつけて縁側を静かに歩いていた。



 風に撫でられたススキが


 波打つように身体を揺らしている。





「瑠火…?」




 そう聞こえたと同時に、


 ある部屋の障子が勢いよく開けられて


 大きな男と目があった。



「槇寿郎…様?」




「お前か…」




「ふふ。私でした。すみません。

 今夜は遅くなってしまったので

 煉獄家に泊めさせていただくことになりました。

 お世話になります。」




 槇寿郎様はこちらに背を向けて褥に横たわった。




「槇寿郎様、少しだけお付き合い願えますか?」




 私は槇寿郎様の部屋の前の縁側に腰をかける。




「…なんだ。さっさと戻ってくれ。」




「そんなこと言わないで…少しだけ。


 今日はあの人の月命日なのです。」




 私がそう言葉をこぼすと、


 寝返りを打ったのか、布の擦れる音がした。




「私はどんどん歳を重ねて変わっていくのに、


 私の中の彼は一生老いることはない。


 少し羨ましくも思います。」




 行燈の灯火はゆらゆらと揺れて

 
 その優しい明かりに涙が出そうになる。




「その簪…」




 ポツリと呟かれ、私が槇寿郎様の方へ身体を向けると、



 彼は身体を起こし、こちらを向いて座っていた。



「…これは彼にいただいたものです。」




「そうか…」




 昼間より落ち着いた声色の槇寿郎様は


 少しだけ優しい顔をしているような感じがした。




「彼を失った頃、私はあの時に自分も…


 などと愚かなことを考えている時もありました。」





 そう、大切な人がいないなら…



 だって彼は私にとって生きる希望のひとつだったから。




「ですが、今はそうは思いません。


 槇寿郎様に助けていただけて


 心から良かったと思っています。


 生きているから、


 あなたや杏寿郎、千寿郎くんたちに出会えた。


 素敵な仲間に出会えて、見たこともない景色に感動し、


 食べたことのなかった美味しいお料理も食べられている。」




 そうできるのは生きているから。




「だから私は、

 槇寿郎様に助けていただけて本当に幸せなのです。

 失ったものばかりではないから…」




 私はそっと立ち上がると、


 槇寿郎様の前で腰を下ろして手を握った。




「ありがとうございます。」




 大きく開かれた目からは



 大粒の涙がこぼれ落ちた。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - ハウンさん» ハウンさん、こちらこそお読みいただきありがとうございます!引き込まれると言ってくださり大変光栄です!続編も更新しましたので、引き継ぎお楽しみいただけるよう頑張りますね! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» misakimiさん、ありがとうございます!まっすぐな煉獄さんの深い愛情が表現できていれば…と思います。これからもそんな彼を言葉だけではなく、仕草や態度での表現ができるように努めたいところです! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
ハウン(プロフ) - 素敵な作品を作っていただきありがとうございます!ものすごく感情移入してしまって胸が締め付けられるくらい引き込まれました!続編楽しみにしてます! (2022年2月28日 23時) (レス) id: 065a2165a6 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 今日も煉獄さんが素敵だ。押し付けがましいところは一切なく、ただただ彼女の幸せを願い笑顔を作れる彼は本当に素敵。 (2022年2月28日 21時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 彼はあまり内緒話など出来なさそうですよね(笑) 巧いだなんて言っていただけて…嬉しすぎて今夜は幸せな気持ちで眠れそうです〜!いつもありがとうございます。 (2022年2月26日 21時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年2月5日 21時

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