#105『君の事が好きだった』 ページ20
朔は深呼吸をした。
そして彼――――スタインベックのもとに歩み寄った。
大方、中也に蹴り飛ばされたのだろう。傷だらけだ。
「・・・・・・大丈夫ですか?」
朔はスタインベックの元にしゃがみこんだ。
スタインベックは目を見開いた。
「捕まりに来たのかい?」
スタインベックは呆れた目を向けた。
「生憎、僕はまだ死ねないです」
「君は・・・・・・変わったね。前の方が美しかった」
月明かりに反射した赤髪が風に揺れ、目深に被った中也の帽子の下からアメジストのようなの目が映えている。
月を背にしてスタインベックを見つめる朔は美しく、艶かしかった。
「人は変われないです。光の世界にいる人間が闇に染まりきる事はありませんし、間の逆も然りです。」
スタインベックは哀しそうな目を向ける朔を見ていた。
「・・・・・・そっか」
スタインベックは目を伏せた。
矢張り自分の想い人は随分変わってしまった。
昔の朔は闇に染まりきった、子供だった。
スタインベックはそれが美しく見えた。人を殺めても何も思わず堂々と立っていた。でも決して『狂気的』では無い。
・・・・・・傍から見たら薄ら口元に笑みを浮かベながら血の海を歩く朔は『狂気的』に他の人は見えたかもしれない。
実際の朔は命令が無ければ実行することがなかった。
『意志』を持たない人間―――――人形みたい綺麗だった。
今の朔は容姿は一段と綺麗になった。でも、心は酷く下劣に成り下がった。
朔はジッとスタインベックを見ていた。スタインベックも朔を見た。
スタインベックは一度息を吐いた。
朔は目を見開いた。
朔の目の前にはスタインベックの顔があった。それは変わらかった。
だが首、お腹に圧迫感がある。
「敵組織の人間――――それに団長が求めている人物が居て僕がみすみす逃すと思う?」
スタインベックは朔の首を押さえた。朔は呆然しており、何も言わずスタインベックを見ていた。
「昔の君の方が美しかったよ」
朔は反論しようと口を開いた。でも、そこから漏れるのは苦しい息遣い、呻き声。
「君の言いたい事は分かるよ。でも・・・・・・」
スタインベックの顔を伏せた。
「でも、僕は前の君が美しい。・・・・・・好きだったんだよ、君のことが」
朔は驚愕に顔色を染めた。
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飛沫(プロフ) - hurukawaさん» いえいえ、すみません。是非最後まで見てください。 (2021年1月15日 18時) (レス) id: 06a707eb14 (このIDを非表示/違反報告)
hurukawa - 見れました!ありがとうございます! (2021年1月15日 18時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - hurukawaさん» ご指摘ありがとうございます。こちらの不手際で非公開になっておりましたので、それを解除しました。見れるようになれたと思います。すみませんでした。 (2021年1月15日 18時) (レス) id: 06a707eb14 (このIDを非表示/違反報告)
hurukawa - #96がないです (2021年1月15日 17時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛沫 | 作成日時:2020年3月16日 15時