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戦果を両腕に抱えて歩く猫犬はまさしく上機嫌であった。だが、だからこそ、というべきか。彼は周囲を一切気にすることなく道の脇を歩いていく。
それはもう、路傍に棲む孤児が食料を手にして歩くことの危険さも知らず、といった様子で。まあ仮に上機嫌でなかったとしても警戒することはなかったかもしれないのだが。
路地裏で棒か何かをくるくる回して遊ぶ若男共が彼の無防備さを見て嘲笑を浮かべた。
良い服を纏った綺麗な子供達は彼の皺がよった服に笑っている。
道端にへたり込んだ乞食は羨望と嫉妬の入り交じった目を彼の手元、つまり食料に向けていた。
「これはちょっと危険かな?」
「……行ってくるわ、猫犬のこと見とってな」
「了解」
けもさんの返事に私は満足げに頷き、注視すべきは先程の男共。
下卑た笑みを浮かべる奴輩など私にとっては取るに足らない相手である。されど、侮るなかれ。
敵を舐めてかかるというのは必ず勝てる筈の相手に敗北を喫する可能性が生まれると同義なのだから。
奴輩が猫犬の方に足を向け、薄暗い路地から陽向に出んとしたその刹那、私はその内の一人にわざとぶつかりにいく。
そしてさも気付かなかったとばかりに私は白々しく謝罪を述べた。
「あっれ、誰かおったん?人おるとか思っとらんかったわ!」
「なんだテメェ、俺にぶつかっといてその態度か?」
「しゃーないやん?視界にも入らん程度の存在なんやし……ああ、相手したろか?ええで、来ぃや」
ひゅん、と風を切る音がした。その原因は右方向から飛んでくるナイフ。速いが所詮はそれだけ、そもそも音が鳴るのは力が収束出来ずに分散している証左なのだ。そんな攻撃で倒れる程私は弱くないし、優しくもない。
それに最近はストレス発散も儘ならない日々だった。四方八方からの拳やら足やらを敢えて全部受け、気を緩めたであろうその隙に目前の男へ蹴りをお見舞いする。
「ごめんなー?てかまぁその汚い眼、私の仲間に向けたお前らが悪いんやけどな」
「なに、言っ、て、やがる……!」
「息上がんの速ない?とりあえず一遍死ね」
先程のナイフを腹部に刺し、抜いた傷口を足蹴にする。尤も本気で殺す気など毛頭ない。
痛いことはまあ痛いだろうが、精々塞の河原が見えるか見えない程度である、多分。
怯えた顔で逃げ出した他には目もくれず、男のポケットに突っ込まれた紙幣と貨幣を手に私はその場を後にした。
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