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二人に行ってきます、と声を掛け、ひらひら振られた手を尻目に私は屋外に足を踏み入れた。
スキップでもしてしまいそうなくらいにはご機嫌である。土地勘なんてない私が供も付けずに行き先なく出歩くなど、全くどれほど危ないことなのであろうか。
それを完璧に理解している訳ではなかったが、一人で路地裏は怖いためとりあえず人気の多い大通りを進んでいく。
胸元のリボンタイが揺れ、糊の効いたブラウスがかさかさと音を立てる。
ただ歩いているだけだというのに何故こうも楽しく思えるのだろう?
気ままに進む道端で、何かの楽器を奏でている人達がいた。その前には錆びた空き缶が置いてあり、中には幾らかの銀貨が入れられている。つまりはこの人達にとっての生業がこれということか。
「……私も楽器とか持ってたら、お金稼げたかな?」
まぁ、仮に持っていたところで何の教育も受けていないのだから意味はない。名前も知らない楽器達の優しげな音色は聞き心地が良くて気分が和らげられる。
二人もいたらよかった、と呟きながらも一人という数少ない時間に浸りたい、相反する感情。
私もそんな教育が受けられるくらいの暮らしが出来たら良かったのにな、なんて。
「ん……あれ、んー?」
きらりと陽光を反射した何かの光が目に入った。それは今でこそ滅多にお目に掛かれない、されどかつては何度も目にしたことがあるもの。
鈍い輝きを放つ小さな銀色、中央に4の文字が彫られたそれ。所謂4ペンス銀貨というやつだ。
ここしばらく触れることのなかったお金を久々に手にしたという得も言われぬ高揚感が身を伝う。だがそれが落とし物であり、本来の持ち主が別にいることは紛れもない事実である。流石にそれを理解した上で使える程私は非人道的ではないようだ。
そこではたと思い立った私は演奏者達の空き缶に銀貨を投げ入れようとした、その時である。
「お嬢ちゃん、そいつぁあんたのもんさ」
「……え?」
「あんたも良い暮らしはしてねぇんだろ?あっちの屋台で飯は安く買える。俺らに貢ぐ必要なんざねぇんだよ、若人」
演奏者の一人、銀貨よりも澄んだ銀色の横笛奏者はそう言って笑った。今後の主役はあんたみてぇな若人なんだからよ。
言われるがままに行ってみた屋台は、飲食物のみならず服や飾りも売っていた。取り敢えず温いミルクとチーズを買って、私は帰路につくのであった。
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