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幾分か増した人の群れの中、一人私は教会へと足を進める。

分厚いパーカーの袖に指先までを潜ませながらぱたぱたと歩く一人の子ども、それが端から見た私だろうか。
環境はお世辞にも良いとは言えない土地である。陽が昇れば保温のために日向へ出てくる孤児も少なからずいる訳で、そんな子達の陽光を浴びてもなお煌めかない瞳も見飽きてしまった。




「はい、どうぞ」


掃除の真っ最中だった彼女は、教会に姿を現した私を見るなり嬉しそうに紙袋を手渡した。

中にはパンが六個。触らずともわかるふわふわな生地とバターの香りが鼻腔をくすぐり空腹を誘発する。
かつては孤児院を併設していたらしいこの教会は、孤児に対して非常に優しい。
もしかしたら孤児院が無くなったせいで行き場を無くした子達への罪滅ぼしなのかもしれないが、何にせよその恩恵に与れているのは紛うことなき幸いだろう。


「今度来た時はミートパイ、作るわね」
「あ、ありがとう、ございます」
「もう少ししたら人も来るでしょう。早くお帰りなさい?」


私を見つめる優しげな視線はどこかむず痒い。門の近くの瀟洒ながらに荘厳な聖母像を彷彿とさせる、愛と慈しみに塗れたその笑顔。
神に仕える者にまさしく相応しいといったところであろうか。

小さく首肯した私は紙袋を両手で抱えて道を行く。


「……父と子と聖霊の御名によって、な。子を通して力借りて、そんなんしたところで意味ないやろ?」


去り際、当然の様に祈りの言葉を呟いたシスターへ私は半無意識下で嘲笑を零す。

脳裏にちらつくのは彼女の笑顔。
自己愛に満ちた利己的極まりない偽善者の、吐き気を催すようなそれ。壊したい。自分が正しいと思い込んでいるその顔を、血と涙、傷と痣でぐちゃぐちゃにしてやりたい。

大っ嫌いな偽善者。自分達の行動を正当化する為に相反するものを批判し、排除する奴ら。
そんな奴らがぼろぼろにされた姿ほど私を興奮させるものもきっとないであろう。
歪んだ思考に頬を吊り上げ、喜悦を滲ませながら私は上機嫌で帰路を辿った。

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作者名:瑶杞 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年12月26日 19時

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