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軍曹は裏路地へと移動していた。
そこには壊れた排水口があり、綺麗な水が壁から漏れ出ているのである。つまりは彼らのような人種にとっての水道という訳だ。
壁にバケツを押し付けてある程度まで水を溜めると、軍曹は手を椀のようにしてその水を掬い上げる。
ごくり、と華奢な首の喉が上下した。もう一度そうやって水分を供給してから彼は重いバケツを片手に携えて帰路につく。否、つこうとした。
｢おはよう軍曹！！｣
｢……おはよ、猫犬。なんでおるん？｣
｢軍曹が行くのが見えたから付いてきた！てかそれ持つよ｣
｢マジで？ありがと｣
くるりと後ろを振り返った軍曹の足が止まったのは、見慣れた容姿の人物が視界に映り込んだ為だった。紛れもなく彼の仲間の一人である猫犬、その人である。
普段は後ろで束ねている紺碧の髪は下ろされ、服にも皺がついたまま。大方起きてすぐ軍曹の後を追ったのだろう。
起こしてしまっていたのかと軍曹は小さく悔やむ。
水汲みは一番に起きた人の担当なのだが、出来るだけ仲間達には外に出てほしくない。外がどれだけ最悪なものなのか、自分達はよく知っている。
｢けもさん起きてるかなあ｣
｢私が起きた時にはまだだったよ｣
｢安眠は良いことやからな｣
｢じゃあ私もっと寝よ！｣
｢やめて起こすのめんどい｣
荷物がなくなり手持ちぶさたになった軍曹は、寝癖の一つもついていない猫犬の髪をくるくるといじる。
さらさらストレートの髪。自分の髪は嫌いではないが、これだけ綺麗なストレートだと少しばかり羨ましく思えてしまう。
出会った頃は結べないような長さだったのが今では結べるというのが、何となく自分達の付き合いも長くなってきた証左のように感じられて軍曹は自然と口角を上げた。
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