検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:14,302 hit

70 ページ10

「お母さんも、愛されたかったんだよね」


僕は知っている。

愛されたことのない人間が、他者を上手に愛せるわけがない。

歪んだ気持ちを植え付け、相手が毒されるのを待つことしかできない。

結果、まるで屍臭花のような、醜く汚らわしい愛情が芽生えてしまう。


「やっぱり僕達は親子だね」


あまりにも予想外の話だったのだろう、母は呆気に取られている。


「僕はお母さんの理解者になれる。僕だけはお母さんを分かってあげられる。……だから、お母さんも僕の思いが理解できるはずだよ」


口角が歪む。

お母さんの前で、初めて心の底から笑えた。


「これ、なーんだ?」


僕はスマホの画面を見せる。

母が携帯端末を見たのは入所以来だろうか。


「ネットで知り合った人に貰った自撮りだよ。イケメンだよねー。……加工してるせいで少し見づらいけど、誰なのかくらいは分かるでしょ?」


みるみる引き攣っていく、母の顔。


「右に映ってる彼女さんとは、半年前に付き合い始めたんだって。凄く可愛い子でしょ? 美男美女カップル、羨ましいなー」


今すぐ腹を抱えて笑い転げたい。


「お母さん? どうしたの、頭痛い?」


母は荒々しく髪を掻きむしった。


「……死ね。今すぐ」

「あの時しくじらなければ、そんなこと言わなくて済んだのにね」

「……」


忌々しそうに歯軋りする音が聞こえる。

自分が不利な状況になると、歯を軋る。

いかにも母らしい癖だと思った。


「愛憎って良い言葉だよね。愛情と憎悪が表裏一体だって、今の僕には身に染みて分かる。……ねぇ。僕が言いたいこと、分かる?」


アクリル板をコツコツと叩く。

この隔たりさえ無ければ、今度こそ僕は殺されるだろう。

全身に殺気をまとった母は、獣のような剣幕で僕を睨んでいる。

僕を失った今、母は初めて孤独になった。


「もう二度と来るな」


そう言い捨て、母は乱暴に席を立った。


「そんなこと言わないでよ。家族のコミュニケーションは大切でしょ?」


未だ飄々と話しかけてくる僕が鬱陶しいのだろう、大きな舌打ちが飛んできた。


「またね、お母さん。大好きだよ」


未確認生命体でも見るような目付きの母を、とびきりの笑顔で見送る。

みっともない猫背が扉の向こうに消えた後、僕は一つ伸びをして立ち上がった。

71→←69



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
94人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , ヤンデレ , 病み
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

さっぽん - 次のお話を楽しみにしています!! (2021年5月19日 21時) (レス) id: 6727f20ffd (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - すごく楽しませてもらっています!病み系のものが少ないのでできれば長期化してほしいです! (2020年8月14日 3時) (レス) id: 19593b8502 (このIDを非表示/違反報告)
恋花レンカ - すごくドキドキします!続きが楽しみです! (2020年5月4日 11時) (レス) id: 434c29f1e9 (このIDを非表示/違反報告)
ときあめ(プロフ) - めちゃくちゃ鳥肌たちました……どこか薄暗いような、気が滅入るようなお話が大好きで、この作品を読んでこれだ!感がすごかったです笑続きを楽しみにしてます。 (2020年1月26日 14時) (レス) id: 5d5f606a06 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:マミカ | 作成日時:2019年12月5日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。