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ここ数か月の間、自傷行為をする事は無かった。

あれほど大切にしていたカッターは、もう長らく日の目を見ていない。

自傷をしなければ正気を保てなかったあの頃の心身とは打って変わり、現在の僕はとても健全で健康的。

もしも過去にタイムスリップできたら、当時の僕にほんの少しでも希望を与えることができるだろうか。


「まふ、寝る前に風呂入れよ」


ドア越しにそらるの声がした。


「はーい、今行くー」


半身を起こしながら返事をする。

綺麗に畳まれたパジャマを手に、自室を出て脱衣所に向かった。



肌に感じる湿度で、そらるが入浴を済ませていることが分かる。

今頃はシーツとタオルケットの間に挟まって、必死に眠ろうとしているはずだ。

あの声の調子から察するに、寝る前の読書なんてとてもできる状態ではないだろう。


「……」


気付いたら壁を殴りつけていた。

今、そらるの頭にいるのは僕ではなく、Aだろう。

そう思った瞬間、酷い嫉妬心に苛まれた。

握りしめた拳が痛い。

こういう痛みは久しぶりだ。


「ストルゲー、だっけ。家族愛とか言うやつ」


とある小説のテーマになっていた、小難しい単語を思い出す。


「いとこなんか家族ですらないじゃん。ほどほどにしなよ、そういうの」


服を脱ぎながら独言を続ける。


「……家族愛」


それは、決して無償ではない。

与えられないからと言って、死活問題には直結しない。

かつて、僕が何より渇望したもの。


「そんなの必要ないって、頭では分かってるんだけど」

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さっぽん - 次のお話を楽しみにしています!! (2021年5月19日 21時) (レス) id: 6727f20ffd (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - すごく楽しませてもらっています!病み系のものが少ないのでできれば長期化してほしいです! (2020年8月14日 3時) (レス) id: 19593b8502 (このIDを非表示/違反報告)
恋花レンカ - すごくドキドキします!続きが楽しみです! (2020年5月4日 11時) (レス) id: 434c29f1e9 (このIDを非表示/違反報告)
ときあめ(プロフ) - めちゃくちゃ鳥肌たちました……どこか薄暗いような、気が滅入るようなお話が大好きで、この作品を読んでこれだ!感がすごかったです笑続きを楽しみにしてます。 (2020年1月26日 14時) (レス) id: 5d5f606a06 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:マミカ | 作成日時:2019年12月5日 14時

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