12月の花束＜ybhk＞

9月・満月 ※社会人ybhk ページ8

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ybside only

海外勤務の辞令がでた。
一度行ったら三年は戻ってこられない。途中で帰国できるかどうかもわからない。



夏休みをまだ取っていなかったのを口実に、赴任直前の忙しいときに無理やり予定をこじ開け、奮発してコテージ滞在のできるこの島にきた。
東京では秋の気配を感じはじめていたが、ここはまだ夏の匂いだ。

コテージの目の前はプライベートビーチで、俺達のような2人が過ごすにはあまり目立たずちょうどいい。


俺達は俺達の前には思い悩むことなど何もないかのようにはしゃいで、泳いで、…そして、甘く2人きりの時間を過ごした。



最後の夜、満月が漆黒の水面を静かに照らすビーチ。黙ったまま波打ち際を2人で歩く。

約束をするのは簡単だがそれは何の保証もなく、形にもならない。それがわかっていて口に出すのは不誠実ではないのかと、俺は自問自答を繰り返していた。


最後の夜をもやもやとしながら歩く俺の少し先にいる光。ふと立ち止まり振り向くと、俺の大好きな笑顔で言った。

「やぶ、俺はどこにいてもちゃんとやぶのことみてるからね」

シンプルで、まっすぐな言葉。

旅立つのは俺なのに、俺のほうが置いていかれる気がして、涙が溢れてくる。

「大丈夫だよ、やぶ」

俺はこの先も満月をみるたび、この光景を思い出すだろう。俺の行く道を照らしてくれるのはいつだって光なんだ。


fin

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