33 ページ8
「……君はわたしのどこが好きなんだ?思考のないわたしはもうわたしじゃないだろ」
「……俺から離れていくよりは良い」
……もう説得は無理か。
なんとかベッドから逃げようとはしたが、床に倒れてしまう。
「大丈夫か?」
差し出された手を払い除けて立つ。
彼は存外悲しそうな顔をした。
「ほら、逃げるだろ」
殆ど無意識に、ただあんまり悲しそうだから、手を伸ばして、
……彼の頭を撫でた。
驚いた顔をした涼星が可愛く見えた。
あんなに怖かったのに。
「……ふふ」
可愛い。
彼の頭を撫でくりまわしながら、わたしはひとつの決心をした。
「わたしの腱を、……アキレス腱を切るか?」
「……え?」
ぽかんとした顔の涼星。
そりゃそうだ。こんな提案正気じゃない。
「そうすればもう二度とわたしは君から逃げられない。二度と以前のようには走れない」
……走れない。
それは言葉にすると思っていたよりも重くて、胸が詰まった。
「できないことがふえる」
唇が勝手に言葉を紡ぐ。
「一緒に走れない。追いかけっこもできない」
だめだ、涙が出てくる。
今度は涼星が頭を撫でてきた。
「……そんな顔するなよ」
「ごめん。……同情を誘うつもりじゃなかった」
温かな肩に顔を押し付けて、目を閉じる。
「わたしは今自分が一番大事なんだ。だから自分の一部を失うというのはなかなかつらい」
本当は出来ることはすべてやって、愛を示すべきなのかもしれないけど。
「……わかってる」
「わかってないだろ。……君とは違って、もう二度と生えてこないんだから、大事にしてくれ」
涙をぬぐって涼星と顔を合わせる。
「って事でやっぱり腱切るのはなしで」
「お前な……」
頭を軽くはたかれて、思わず笑う。
涼星も笑った。
赤い、赤い血の色の瞳で。
「……あれ……?」
視線が、そらせない。
ああ、これはだめだ。
「…………やっぱり、せっとくなんて」
無理だったのか。
意識を失う直前、わたしは涼星の腕が、身体を支えるのを感じた。
271人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほっ - え、今更新中止しますか!?めっっっっちゃいいところだったのに!?? (2022年3月6日 13時) (レス) @page49 id: a5ff14c25a (このIDを非表示/違反報告)
冷兎 - あ”ぁ”ぁ…っ、ちょ、いいところっ……!!今!いいところぉっ……… (2021年7月31日 2時) (レス) id: 3cae246b7c (このIDを非表示/違反報告)
あま - 一番気になるところで… 更新待ってます!!! (2020年6月20日 23時) (レス) id: 621034dbe1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - 今、更新停止中ですね。 (2020年2月19日 17時) (レス) id: a614cebea9 (このIDを非表示/違反報告)
NZM(プロフ) - 更新楽しみにしてます…!吸血鬼様良き… (2019年11月22日 16時) (レス) id: 13f970b2f4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ