無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ49)

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.薬研藤四郎

　話をしようか。と、そういって連れてこられたのは厨だった。先程いた場所とは違って比較的片付けられたそこは、しかし、あまり使われた形跡がない。本来あるはずの生活の匂いも何も無い、冷たい無機質な空間と化していた。

　こんなところに、一体なんの用だろうか。警戒と困惑から、ちらりといち兄を一瞥する。いち兄は、金色の瞳をゆったりと細めて、無表情で厨を見つめていた。読めない表情(かお)がやけに怖くて、慌てて視線を逸らした。

「……で、話ってなんだ？いち兄」

　いつも通りの声を出す。いち兄は曖昧な表情のまま、食い入るように厨を見つめている。

　隣に立つ乱の爪が、ぐっと肩にくい込んだ。

「……ねえ、薬研。我々に食事は必要だと思うかい？」

「……は？」

「私はね、必要だと思う。いくら元は刀だといったって、今は人の身なんだ。食事も、睡眠も、とるべきだと思っている。けれどね、私は今まで、ただの一度たりとも食事をとったことはないんだよ。白い、不思議な金平糖なら食べたことがあるけれど、あれは食事とはいえないだろう。せいぜい栄養補給、あるいは、お八つといったところかな。それもそれで変だけれどね」

「……何が、いいたいんだ？」

　ぎゅう、と、乱の爪が強く肩にくい込む。みしりと肩がきしむ音がする。いてえよ、と振り払おうとして、その瞳が、何も写していないことを知った。

「やげん」

　──嗚呼、逃げなければ。

「ねえ、どこに行くのさ？」

　ニコリ、乱が微笑む。兄弟の中で一番、女人めいたツラだ。服装と相まって、ひどくなまなましい。

「ゴメンね、薬研。でも……いくらボクがあるじさんを愛していても、憎からず思っていても、ボクはボクが“乱藤四郎”である限り、ずーっと、粟田口の味方なんだよ？」

　知らなかったんだね、薬研。おまえ、新入りだものね。ボクたちがどんなに苦しんだか、苦しめられたか、知らないんだ。

「ボク、ずうっと後悔してたの。ボクがあの時、あんなことをいわなければ、ボクは永遠にあるじさんといっしょにいられたのになって。ボクの兄弟が、あんなに無意味にたくさん死ぬことはなかったのになって。だからボク、決めたんだ。いつか絶対、ボクがこの手で、この刃で、あるじさんを殺すこと」

　青い、びいどろの瞳が笑う。かつて海のようだと思ったそれは、今ではすっかり汚れてくすみ、ひどい腐臭を放っていた。

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