無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ45)

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.薬研藤四郎

「……よし、と。これで傷は全部だな」

　血に染まる肌を、覆い隠すようにして包帯を巻く。長いまつ毛にふちどられた瞳は、依然として固く閉ざされたままだ。

　手当をするとは申し出たが、刀剣男士である以上、審神者の手入れを受けない限り、俺たちの傷が癒えることはない。それは鯰尾も一緒で、だからこれは、気休めなのだ。

　だというのに、骨喰はひどく嬉しそうに、いそいそと鯰尾の隣に座り込んでみせた。もしかすると、彼はわかっていないのかもしれない。否、わかっていたものを、忘れてしまったのだろう。見る限り、この骨喰はとても情緒不安定だ。記憶障害が起きていたとしても、不思議ではない。

「これで、兄弟は良くなるのか？」

　ああ、やはり──。喜びを隠しきれずにそう尋ねた骨喰に、俺っちは曖昧に笑った。応とも否ともいえなかったからだ。どちらを取っても、この骨喰には酷な結果になる。俺っちもつくづく兄弟に甘いなと、自嘲気味に頭をかいた。

「薬研」

　ふと、有無をいわさぬ声色が、後ろから飛んだ。俺っちが振り返るより先に、わっと部屋にいた兄弟たちがその声に飛び込んでいく。

「いち兄！」
「いち兄、おかえりなさい」
「いち兄、どこへ行ってたんですか？」
「いち兄」
「いち兄」

　ニコニコと声を受け止めながら、いち兄は真っ直ぐこちらを見つめた。「鯰尾の手入れは終わったのかい、薬研」俺っちがゆっくり頷くと、にこりと笑って「それは重厚」と呟く。「よくやったね。ありがとう」

　藤四郎の中の明確な「兄」のうち、すべての者の兄。いち兄。一期一振。当然、俺っちの兄でもある。

　記憶の中のいち兄は、いつもニコニコと微笑んで、優しげな視線を俺たちに向けていた。そして間違ったことをしたときには、時に厳しく、優しく、俺たちを指導した。

　いち兄は好きだ。

　だが、このいち兄は少し苦手だ。

　陽の光を詰めたようなひとみの奥には、誰よりも冷たく、無機質な色が浮かんでいる。

　優しげな笑顔の奥に、隠しきれない情念がうずを巻いている。

　ここにあるすべての者が、俺っちの記憶の中と異なる。兄弟も、身内でさえも。それは決して彼らのせいだけではないのに、俺っちにはそれがどうしても怖くて──恐ろしい。

「さあ、薬研。少し話をしようか」

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