無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ44)

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.乱藤四郎

　──気づかれたかな、と思った。

　ボクが前任者(あるじさん)のことを憎からず思っていること、薬研に気づかれたかな。

　あの「薬研藤四郎」は、練度のわりにずいぶん聡く、賢いようだった。今までの「彼」とは、まるで様子が違うと、ボクもいち兄も思っていた。

　やはり、審神者の影響だろうか。ボクは首をめぐらして考える。そして思い出す。あの審神者の、どこまでも冷たい理知的なひとみを。

　真夜中を煮詰めたような、黒い瞳だった。

　彼も、彼女も。

　ボクは──、そう。ボクは、あのドロドロとした暗闇が、ほんの一瞬だけ、やさしくやさしく細まるのが、いっとう好きだったのだ。

　いっとう好きだった、だけなのに。

　現世の服を着せられた。女の子の服だ。

　髪も結って、オシャレをして、鏡の前に立つと、本当に別人みたいだった。

　そうして、喋るなと言われた。

　ただ座って、俺のそばにいろ、と。

　あるじさんは、ボクと同じ亜麻色の髪をした人だった。

　ボサボサの亜麻色の髪の毛を、無造作に伸ばしっぱなしにして、後ろで束ねていた。暗いひとみを機嫌悪げに細めて、常にガリガリと、机に向かっていた。

　あるじさんはいつも焦っていた。なにかを追い立てるように、なにかに追い立てられるように、汽車のようにぐるぐると、本丸を忙しなく回していた。休むことなく出陣を重ね、戦力を増やし、減らし、何か苛立つことがあると、よくたばこを吸って灰皿をやまもりにした。

　あんまりにけむりをくゆらせるものだから、ボクは一度だけ、「そんなに吸ったら身体にわるいよ」といったことがある。

　そのとき、あるじさんは初めて──ピタリと汽車を止め、憎々しげに、愛おしげに、けれどひどく寂しげに、こちらをじいと見つめたのだ。

　そしてそのときだ。そのとき初めて、ボクはあるじさんに殴られたのだ。

　そして、また──きっと、そのときからだろう。兄弟が、みんなが、あるじさんの手によって折られるようになったのは。

　たぶん、ボクが均衡をこわしたのだ。あるじさんの中で、ずうっと立ち続けていた何かを、ボクがぽきんと折ってしまったのだ。

　あるじさんを保ってあげられたのは、あのときも昔も、きっと、ボクだけだったのに。

　代わりになってあげられたのは、きっと。

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