無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ25)

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.鶴丸国永

　審神者を姫抱きにしてスタスタと去っていく薬研を見つめながら、俺はそっと目を細めた。

「……薬研」

　隣では、一期一振が苦い顔で奴らを見つめている。──否、睨んでいる、といった方が正しいかもしれない。

　俺たちは割かし穏健派だが、本丸にはもっと荒々しい、審神者に強い憎しみを抱いている奴らがたくさんいる。兄弟刀を折られたり、相棒を折られたり──ああ、今は両方いないが、恋刀を折られた奴もいたな。

　あの審神者が今後どう行動するか見ものだが、心のどこかで彼奴を心配している自分がいることに、俺は無性に腹を立てたくなった。

　──忘れたのか。俺が、俺たちが何をされたのか。

　虐げられ、辱められた日々を。

　忘れたのか、俺は。

　否。忘れていない。忘れるわけがない。いくら俺の頭が悪かろうと、あんな屈辱的な出来事は、そうそう“忘れられない”。

　だが──それならばなぜ、あんな人間如きに心を動かされているのだ。

　俺は、鶴丸国永じゃないのか。

　きちんとしろ、鶴丸国永。

　あいつらへの償いのためにも──。

「鶴丸殿、どうされました？」

　その声に、はっとして意識を戻す。見ると、一期が怪訝そうな表情でこちらを伺っていた。

「……いや」

「疲れているのではないですか？午前中はずっと審神者を追いかけ回していたのでしょう？」

「……そう、かもしれない。済まないが、先に休んでいても構わないか」

　一期は「ええ、勿論です」と柔和に笑った。その笑みがどこか空々しく見えて、俺は虚しさにそっと目を伏せた。

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