無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ14)

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　すみれ色の瞳が迷うように揺れたのと同時に、ずん、と重い空気が背中にのしかかった。

　敵はゆっくりと話す時間もくれないらしい。横に振るわれた大太刀を、振り向きざまに屈むことで回避する。

　空振りに終わった大太刀は空気を裂き、ばらばらと周りの瓦を剥がして吹き飛ばした。

　……なんて威力だ。

「とにかく、行きますよっ！」

　滅多に出さない大声を出して、薬研様の手を引く。短刀である彼の身体は、存外容易く動かすことができた。いざというときは抱えて逃げることも造作もないかもしれない。

　大太刀は想像よりもだいぶ素早かった。早く、どこか狭い場所に逃げ込まないと危ない。

　反対にいえば、狭い場所──大太刀を振るうのに不利な場所へ行けば、少しは勝機が見えるということだ。もっと、もっと走らなければ──

「！」

　視界の端に、ちらりと人間が見えた。この時代の人間だ。ふと、大太刀の足が止まった。ゆったりと腕が持ち上げられる。薬研様がはっと息を呑んで立ち尽くした。

　斬れ味鋭いあの大太刀は、いとも容易くやわい肌を裂くだろう。相手は普通の人間なのだ。人間はギョッとしたように大太刀を見ると、怯えて後ずさった。──ああ、間に合わない。

　なぜ、そうしたのだろう。わからない。ただ、一瞬、フラッシュバックしたのかもしれない。私が罪を犯した、あの時のことが。

　あの時も、同じようなことが起こった。覚えている。昨日のことのように、覚えている。痛覚なんてないはずなのに、なぜか胸を貫いた鈍い痛み。目の前で倒れていく“誰か”。

　呆然としたように振り返る私に、無表情のまま、だけれど確かに嘲り笑った“完成品”。

　背中から、ぬるく赤い液体が噴き出したのがわかった。痛みはなかった。これは私の血なのだ、と頭の中の冷静な部分が告げた。

　かひゅ、と細い息が漏れた。大丈夫だ。損傷は激しいが、まだ動ける。

　のろのろと遅い足にむち打って、呆然としている薬研様と人間を両腕に抱えた。そのまま倒れ込むようにして細い路地に入る。

　政府から支給された服が、じわじわと赤く侵食されていくのがわかった。

　おい、大将、と薬研様が私に呼びかけてくる。いけない、少し出血しすぎたか。

　徐々に遠くなっていく耳とぶれる視界に抗えず、私は意識を落とした。

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