僕はアンプロンプチュ (ページ42)

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『ねえ、先輩』

軽いスピーチを終えた後、ステージを後にした俺らは何を喋るわけでもなく、若干気まずい空気で俺が先輩の後ろをトコトコと追いかけていた

…やっぱり腑に落ちない部分が多すぎて先輩を呼び止めるけど、話しかけるなと言わんばかりにどんどんと急いで歩いてしまう
…つまり無視されている、、

『先輩！…先輩ってば！！』

先回りするために少し小走りして先輩の前に行く
視界が大きく遮られた先輩は心底驚いたような顔をして止まった

『先輩！聞こえてます？』

そう聞くと、先輩は再び驚いたような表情をして

『ごめん…聞こえてなかった、、』

と言った
無視されていたわけではなかったようだ

『なんか、心ここにあらずって感じじゃないですか？俺ら優勝したんすよ？』

『うん、、』

『…嬉しくないんすか？』

先輩は少し俺に笑いかけた後また複雑な表情に戻った
こんなに先輩の感情にズカズカと土足で踏み入れるような真似はしない方がいいのかもしれないけど、…今、このまま見て見ぬふりをしたらもっと深刻な事態になりそうだと俺の勘が言っている

『…賞金、今分ける？』

先輩が手に持っていた封筒をこちらに見せると、複雑な熨斗を綺麗に剥いで剥き出しの100万を手に持った

…セキュリティガバガバだな、、

『いち、に、さん…よん、』

『ちょっとちょっと！何やってるんすか！！』

『何って、五十万に分けてるの』

『俺、賞金なんてもらうつもりなかったんすけど…』

『あんたにもらうつもりがなくても二人で優勝したんだから賞金分けるのは当然でしょ？』

…いや、それはそうなんだけど

『約束したじゃないすか！先輩の家のために二人で優勝しようって…俺は遊びのために百万とったわけじゃないんですけど、、』

『矢花って意外と頑固なのね、、』

『だって…』

『馬鹿馬鹿しいじゃん。私はバイトして、お母さんのために必死に百万取ろうって練習してるのにあの人はパチンコ三昧…。それに浮気もして挙げ句の果てには子供に嘘をついてたのよ？』

先輩がそう思うのは至極当然だ
ある種、先輩の恋愛観に大きな影響を及ぼしたであろう母親のイメージ像が一気に崩れ、二十一年間先輩が見てきたもの、感じてきたもの、行動、経験。その全てが一気に否定されることになるのだから

『…しかも私、お父さんの事疑ってた。お母さんのせいで！十年も、、』

やがてその憎しみは虚しさに変わり、先輩の心の中を占拠している