STORY32 肉じゃが ページ34
総悟君は、私が建物に入るまでずっと見ていてくれた。
嬉しさで笑みが溢れる。
扉を開けて、帰るとおばあちゃんがとんできた。
「Aちゃん! 大変な目にあったねえ。大丈夫だったかい?」
「心配かけてごめんなさい…怪我はないです。」
本気で心配した顔のおばあちゃんに、申し訳なくなる。
無事の連絡は土方さんにしてもらっていたけど、帰り遅過ぎたかな…。
「だから言ったろ、Aちゃんは大丈夫だって。Aちゃんが強いことはよーくわかってるしな。」
「もう、貴方ったら。ずっと落ち着かない様子でうろうろしたり、新聞逆さまに読んでたの知ってますからね!」
「ぐ…。」
なんだかんだ、おじいちゃんにも心配をかけていたらしい。
「ごめんなさい。…ありがとう、ございます。」
安心させたくて、嬉しくて、笑った。
「さあさ、ご飯あるからね。たーんとお食べ。」
私の分、残しててくれたんだ!
今日の献立は肉じゃが。
私がここにきたとき、初めて食べたおばあちゃんの手料理だった。
私の惚れた味。
「やっぱりおばあちゃんの肉じゃがは最高です!」
おばあちゃんの手料理の味を噛み締める。
お別れ、言わなきゃ。
いつ帰ってこれるかわからない。
「ねえ。この肉じゃが覚えてるかい?」
急で何のことか分からず口をつぐむ私に、おばあちゃんが言った。
肉じゃが、何の話だろうか。
「貴方が初めてうちにきたとき、出したのがこの肉じゃがだったね。」
もちろん覚えてる。
少し、視界が歪む。
…さっきようやく腫れをひかせたのに。
「あの時の貴方は…そうね、ずっと悲しそうな目をしてた。でも今は、とてもよく笑う綺麗な女性になりましたね。」
「おばあ、ちゃん?」
そんなお別れみたいなこと…。
私、まだ何も言ってないのに。
何で、何で。
「貴方が大切な人を見つけて、お出かけしたのよ? きっとこうなるって分かってたわ。それに帰ってきた貴方の瞳。決意を固めたって顔をしているじゃない。」
…おばあちゃん。
何でもお見通しなんだ。
思えば、出会った当初からそうだった。
194人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たいる(プロフ) - わかさん» こっちにもコメントくださってたんですね!笑ありがとうございます。笑っていただけて良かったです笑笑 (2021年7月11日 17時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
わか - ミョウバンは笑った!!笑笑 (2021年7月7日 21時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:たいる | 作成日時:2021年1月8日 0時