君と矛盾した幸福 ページ13
軽くシャワーを浴びた後、ソファに座って包帯を巻き直す彼の横に間を開けて座る。
「私、消毒します。包帯も巻きます」
「え…」
目をぱちくりさせる環さんの表情は先程よりは回復していて少し安堵する。
包帯と消毒を手に持つと、環さんは口元をもにょもにょさせた、むず痒いという表情をしながら私に腕を差し出した。
逞しい腕には痛々しい傷跡がついていて、消毒をすると彼は「…っ」と息を飲んで顔を顰める。
「…」
優しく、丁寧に、痛くないように。
腕も脚も消毒して包帯を巻いて、最後に残ったのは背中だった。
私よりもずっと広くて、逞しい背中。大きな傷跡から小さなかすり傷が沢山あって、胸がきゅっと苦しくなる。
ぺた、と彼の背中に手をあてると、彼はビクリと肩を揺らした。
鼓動の音が掌からどくどくと伝わって、それだけで胸が熱くなる。
消毒をして、ガーゼをして、包帯を巻く。
(この背中が、いつも人々を守ってるんだ)
それは今だけじゃなく、昔もそうで。
過去の私も、何回も彼に救われた事を聞いた。
──────この、背中が…。
「…っ、A…?」
彼が明らかに動揺した声を上げる。
それはそうだ──────私は、彼の背中にそっと両手を添えて、顔を寄り添わせていた。
自分でも無意識の行動に顔が熱くなるも、離れたくない。
恐怖心よりも先に、"彼に触れたい"という本能が私の心を満たしていく。
「……っ、」
こんなの、こんなの知らない。
貴方の鼓動を聞くだけで。体温に触れるだけで、そんなに心が満たされるなんて。
知っているようで知らない未知の感覚。
胸いっぱいに感じて、私は確信するんだ。
──────あぁ、これを幸せって言うんだ
愛おしくて、愛おしくて堪らない。
なのに、まだ抵抗のある自分には憤りを感じる。
そんな私の突飛な行動に環さんの鼓動は先ほどよりもとくとくとくとく、早鐘を打っていく。
それは私も一緒。とくとくとくとく、早く波打つ鼓動は貴方のせい。貴方だから。
そうして暫く、私は彼の背中に身を寄せて、身に余るほどの矛盾した幸福に浸っていた──────
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alto(プロフ) - 素晴らしい作品でした!上手く表現出来ないのですが、とっても感動しました…!心が暖かくなりました。出てくるキャラがみんないい人過ぎて…すみません、言葉が纏まらないほど興奮してます!これからも応援してます! (2020年9月12日 22時) (レス) id: 22bf36de90 (このIDを非表示/違反報告)
星空_kanata_(プロフ) - 初コメです!この小説大好きで既に3回程読み直してます。天喰くんが推しなのですが初見の時は大号泣でした!他の小説も同じ作者さんとは気づいてなかったのですが、読みました!とても面白かったです!時間があれば、また天喰くんの話書いてくれたらな、と思います! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c2e895435f (このIDを非表示/違反報告)
瑠璃奈瑠璃 - これほどまで感動した小説ありません!いい小説です!もう言葉に言い表せないくらい! (2020年7月25日 14時) (レス) id: ce4d25fc12 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - シュラスさん» コメント遅くなって大変申し訳ございません!気づきませんでした…!ミリオも大活躍でしたよね…!段々と天喰くんのお陰で強くなれた彼女ちゃんです…!感動して頂けて嬉しいです! (2020年4月2日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 藍煙(元もも)さん» コメント大変遅くなってごめんなさい…!気づきませんでした…。ありがとうございます!最後まで読んでくださってもう感激です…!本当ですか!?なんだかとっても嬉しいです!執筆頑張ってください! (2020年4月2日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年5月7日 17時