【ヒロアカ】想い、オモクなる【ホークス】

オモクなった ページ35

──────あ、俺、息止まる。



本能的にそう感じざるを得ないほどの、言葉のナイフは心臓を抉って貫通した。


嘘。それは、真実ではないこと。つまり、それは俺の想いが、彼女への態度が、嘘偽りだということ？


そんなこと断じてない。神に誓ってないと言える。それでも、今回の出来事はその誓いの神聖ささえも揺るがす大きな溝。二人を分つ大きな崖だった。


一瞬込み上げた怒りが、肩の力と共に消えていく──────ドアの前で、Aは嗚咽を漏らしながら、ただひたすら泣いていた。



「…俺が真実だと思っていても、Aにとっては偽りだったのかもしれない」



胸が苦しい。本当は無理やりこのドアを開けて、嫌にでも訳を聞かせたい。でも、一欠片残った良心と臆病がそれを防いだ。



「…傷つけて、ごめん。Aの目にそう映ったのなら、俺の想いが足りなかった。きっと、間違いだったんだ」



初めてできた愛しい人。初めてどんな自分も受け入れてくれた人。これから何年も隣でただ息をしていたいと思えた人。


始めて人に弱みを、"鷹見啓悟"を見せていいのだと、心を許していいのだと知ることができた。人を愛する喜びを、愛される幸せを。


いつか生まれたこの感情は、胸の中で風船のように膨らんで、それと同時にずんずんと重くなって。いつの間にか自分自身の心を縛り、Aの心まで締め付けていた。





「…距離、置こうか」





どうか、君に真実だと認めて貰える、その日まで。









しんと静まり返った室内に、情けない嗚咽音だけが響く。いつの間にか詰んだクッションはめりめりと沈み沈み、とうとう床にめり込んで歪な音を立てている。



「…っ、て、ない、思って、ない、よ…」



嘘だなんて。分かってたのに。これまでの啓悟の表情や言葉が本物だって、愛に満ちたものだって、身をもって知っていたのに。


一時の感情と動揺から口走ってしまった。ドラマでよく聞く在り来りな台詞は、相手だけでなく自分までも大きく傷つけ、どん底へ陥れる。


いつの間にか、啓悟への想いは大きくなり過ぎていたんだ。


初めて心から愛してくれた人だから。私の事を全部受け止めてくれた人だから。


『重すぎるんだよ』と自分を責めてみても、何も変わることはない。そればかりか、想いはどんどんオモクなって心に絡みつき、押し潰して行く。







「…行かないで」







私の呟きは、空へ羽ばたいた彼の羽音にかき消されて夜の風に流されて行った。

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