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ほとんど体温を失った青白い手が、震えながら此方へ伸びる。俺は涙を堪えながらその手を掴んで、両手で握りしめた。
「…わた、し…を、わす、れ…いで…」
"私を、忘れないで"
彼女が途切れ途切れに伝えたその言葉を、聞かない振りを出来たらどんなに幸せだっただろう。これから起こる悲劇を認めたくないから、信じたくないから、ふるふると情けなくも首を振った。
否、分かっているだろう、竈門炭治郎。認めたくないだけだろう。
──────もう彼女の命が、灯火が、消え掛かっていることくらい。
「A、A…っ!」
「わ…た、し、……たを、…あ、なた…を、あ…して…」
──────匂いが消えた。
秘密にしていたけれど、俺は大好きだったんだ。彼女の甘くて優しい、花のような匂いが。
力を失った手を、慌てて握り直して、かくん、と仰け反った頭を、手で支えた。
どうして、どうして最後にそんな事を言うんだ。
いつもそうだ。俺の静止も聞かずに君は突っ走ってしまう。行かないで、と心の中で叫ぶのに、君は逝ってしまった。
「お願いだ…、俺から、俺から…言わせてくれ…」
想いを伝えるのが、女の子からなんて、情けないじゃないか。
ポロポロ、涙が溢れて、雪を溶かしていく。あぁどうか、この胸の奥から湧き上がる絶望と憤激も溶かしてくれないか。
ちらちらと優しく振り続ける白い雪は、なにも慰めてくれなかった。
愕然とした私に、日柱様はにこりと笑う。悲しみを乗り越えた強い人。そんな人の笑顔は、こんなにも美しい。
「今でも忘れないんだ、否、忘れられない」
死んだ人は胸の中で生きる、今もここに彼女は生きてるんだ。
厚い胸板に手を当てて、日柱様はそう自分に言い聞かせるように呟いた。
なんて尊い人なのだろう?この人に向けている自分の感情を恥ずかしく感じてしまう。
この人が胸に秘めた亡き想い人への愛情に比べて、自分の想いはなんてちっぽけなのだろうか。
「話してくださって、ありがとうございました」
溢れそうになる涙を堪えながら、私は走り出した。あぁこんなに酷なことがあるのね。
──────諦めなければいけない貴方のことを、また更に、好きになってしまった。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時