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茶と茶菓子の準備をしているAが早く来ないか、来ないかと待ち侘びる。
きっと、左手に持っているこの1輪の天竺牡丹はもう知られてしまっているだろうけど。
気配がして、Aが正座をするのがわかった。そうして茶と大福を傍らにそっと置く。
「ねぇ」
「え…大福嫌だった?」
どこか強まってしまった声音に、変な勘違いをする彼女がこてんと首を傾げる。僕は何処か焦れったい思いをしながら天竺牡丹を差し出した。
「花屋でAみたいだなと思って。あげるよ」
「わぁ…!綺麗なお花、ありがとう!」
両手で花を受け取ると、子供のように目を煌めかせながら様々な角度から眺める。
「なんて言うお花なの?」
「天竺牡丹って言うんだけど、海外では"だりあ"っていうんだって」
「だりあ…」
確かめるように名前を呟くとAは「大事にするわ」とすぐに花瓶にさした。
再び縁側に2人並ぶと、それまで目を伏せていたAが口を開いた。
「時透くん、さっきは本当にありがとう…。
びっくりしちゃったわ、時透くんが格好よくて」
湯のみ茶碗に伸ばしていた手を、思わず止める。僕は頭がガツン、と揺さぶられたようだった。
「さっきの男の人、本当に毎日のようにしつこく迫られて困っていたの。
時透くん、頼もしいわね」
──────あぁ、なんにも伝わってない。
今まで必死に無視していたのに、Aの言葉で気づいてしまった。
Aが僕の事を"男"として見ていないこと。
「──────僕だって、男なんだけど」
だん、とAを縁側に押し付ける。瞬時に頭をぶつけないように手加減したけれど、それでもAにとっては衝撃だったようで。
「いっ…、と、時透、くん…?」
「僕だって、毎日来てるでしょ。しつこく君のそばに居る」
伝われ、伝われよ。初めてその上品な笑みを崩せた事が嬉しかった。揺れる瞳で僕を見つめるその表情が堪らない。
「僕は君のなんなの?可愛い弟?
そんなの全部Aの都合のいい思い込みだよ。こうやって押し倒して、迫る僕はただの男だよ」
すぅ、と紅を塗った唇に触れると、その唇が「ときとうくん」と形づくった。潤んだ瞳、ほんの少し火照った扇情的な姿に喉仏が動く。
「僕だけの1輪の花」
さぁ、可憐に、優美に咲いていて。
天竺牡丹:可憐、優美
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時