天竺牡丹:時透無一郎 ページ44
かたん、ことん、川の流れのような繊細な糸を持ち上げては下ろす。
時々きゅ、きゅ、と糸を詰める様子を、時透くんは飽きずにかれこれ2時間は見つめている。
「時透くん、飽きたりしないの?」
組紐から目を離さずにそう問うと「うん、飽きない」とすぐさま返事が帰ってくる。
こんな町外れの小さな組紐の専門店に毎日訪れては作業を眺める彼はかなり変わり者である。
じっと此方を見つめる翡翠色の瞳は、いつまで経っても煌めいてこの様子を見つめている。年相応の14歳の少年の目だ。
──────だというのに、その腰に収めた刀で夜な夜な鬼を狩っているのだから、人は見かけに寄らないものだ。
かたん、ことん、きゅ、かたん、きゅ、ことん。
繰り返し作業を進めていくと、瑠璃色と翡翠色を基調とした組紐が出来上がった。
「出来た…」
達成感と組紐の美しさが相まってほう、とため息が零れる。
それを洋燈の光に当ててみると、てらてらと輝きを放った。「我こそが」と胸を張るように、それぞれの糸が、1本1本細やかな光を受けて魔法のように輝いている。
かたん、と組台を閉じると私は時透くんの前に正座をして掌に載せた組紐を差し出した。
「時透くん、この組紐貰って」
それまで夢中になっていた時透くんは私の声に顔を上げると少し慌てたようにそれを受け取った。
「僕にくれるの?」
「うん、そう、そうよ。時透くんのために作ったの」
そう言うと時透くんは早速組紐の両端を摘んで広げてみる。私と同じように洋燈の光に当てると、組紐と同時に翡翠色の瞳もキラリと光った。
「あ」
「うん、綺麗でしょう」
まるで新しい遊びを発見したように、時透くんはほんの少し緩めた顔で彼方此方の角度から組紐を眺めていた。
「…うん、綺麗。綺麗だけど、僕、組紐よりずっと欲しいものあるんだ」
組紐をくるり、腕に巻いて留めながら時透くんはそんな事を言う。糸を片付けながら「何かしら」と首を傾げた。
「A、君だよ」
あ、濃い翡翠。
目の前に翡翠色の瞳が近づいて、私はそこで目を瞬かせた。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時