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「…ごめんなさい、もう、行くわ」
これ以上ここにいたら、苦しい胸がもっと痛んで、張り裂けてしまいそうになるから。
私は半ば強引に腕を払って布団を抜け出そうとして腰を上げた。
──────瞬間、視界が反転して背中に柔らかい敷布団の感覚。目を開ければいつの間にか告白は私を組み敷いて見下ろしていた。
「行くな、もう…俺から離れるな」
名前を呼ぼうとする私に口付けて、するりと舌を絡める。情事の時のように下を絡め、あられもない音を立てる口吸いに、どうしようもなく身体の奥が痺れる。
その間に黒死牟の手は布団へと忍び込んで素肌を荒々しく触れる。
やっと唇が離れると彼は口の端からだらしなく顎へと伝う唾液を舌で拭いとった。
「んっ…、こくし、ぼう…っ」
「はぁ…っ、お前を愛している…」
黒死牟はそのまま首筋へと舌を這わせてその鋭い歯を軽く突き立てた。その部分から血がたらたらと流れて敷き布に真っ赤な花を咲かせる。
ちう、とその傷跡に吸い付いた。強く吸い付いて流れ出る血をどんどん西洋の怪物のように吸っていく。
ひとしきり吸い終えると、黒死牟は唇の血を拭う事もせずに私の頬を撫でた。
「鬼になれ、A」
ずっと昔から何度も誘われてきたその言葉が、今日はやけに心に響いた。
六つ目から目を離すことが出来なくて見つめていると、彼は真ん中の2つ目を切なげにきゅっと細める。
「そうすれば…ずっと身を寄せていられる…」
するり、頬を愛でるように撫でる掌は、鍛錬で出来た豆が重なり、堅く、厚くなっていた。
「私は永劫老いることも死ぬことはないが、お前は衰え、死んでいく…。
お前は…、私にとっての、太陽なんだ」
太陽。鬼が最も恐れ、忌み、恐怖する対象。──────しかし、同時に手に入れることが出来ないものとして渇望する程の存在に喩えられるなんて。
そのとき初めて、私は黒死牟の中で自分の存在がどれほど大きく、大切なものになっていたかを思い知らされた。
「
この道の果てにあるのは、きっと今まで進んでいた道とは反対方向の、血に濡れた極悪の道だ。
けれども、一人で天国に行くのなら、貴方と共に地獄へいきたい。
「愛してる、黒死牟」
涙を零しながら微笑むと、彼は頷いてから唇を重ねた。
──────絡める舌は、濃い鉄の味がした。
紫羅欄花:求婚
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時