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喰われそうになった恐怖、そして目の前の鬼の威圧感に足に力が入らない。
はっ、はっ、と浅く呼吸をする私に黒死牟は手を伸ばし、その腕に包み込んだ。う、と胸が詰まりそうな力で私を抱き込んで顔を埋める。
「行くな…、お前は私の傍にいれば良い。彼奴の…"縁壱"の傍ではなく、私の…」
縁壱?縁壱とは誰だろう。先程の男は童磨と名乗っていた筈。
声を掛けようと口を開くも"何も言うな"と言わんばかりに腕に力を込める。
押し込まれた胸元から、荒く乱れる心臓の音が聞こえる。動揺している。あぁ、心臓が動いている。
泣きたくなるほど切ない声音に、ぎゅぅっと胸が締め付けられた。この人の、癒しになりたい。助けたい。
──────少しでも、その瞬間願ってしまった。
「何処にも、行かない…」
そう呟くと、黒死牟はゆっくりと顔を上げた。黒死牟の頬を包んで、真ん中の目を真っ直ぐに見つめて、言葉を紡ぐ。
「黒死牟、貴方の傍にいる。だから…だから、そんなに悲しい顔をしないで…?」
何故だろう。涙が。涙が止まらない。
どうしてこれ程悲しいのだろう。なんだか黒死牟の匂いが懐かしいような気がする。
何処でこの匂いを覚えたのだろう?ずっと閉じ込められているからなのか。それとも、以前どこかで?
──────あぁ、私、貴方に似ている人を愛していたんだ。
でも、もうそれが誰だかわからない。朧気な記憶は風に吹かれて消えてしまった。
ただ一つ、わかることは──────それが"貴方"では無いということ。
霞がかった"彼"の顔を思い出しながらそう囁くと、黒死牟は、はらはらと涙を零した。
「そうか…、お前は…、やっと、私の傍に…」
幸せそうにそう微笑んで、今度は身体を労わるようにそっと抱き寄せる。
あぁ、ごめんなさい。私また、また貴方を愛せないわ。
黒死牟の背中に腕を回して、そっとその肩に顔を寄せる。
──────その真上で、花札の耳飾りが揺れる音がしないのが、やけに心寂しかった。
弟切草:秘密、恨み、敵意
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時