弟切草：黒死牟 ページ33
＊若干の捏造と本誌の内容を含みます
生き地獄。
この世にそんな事があるか、と昔は心の中で罵り、否定してきた。
だが実際どうだろう。今の私は生き地獄を味わっているに等しい。
湿った日の当たらない部屋を照らすものは小さな洋燈のみ。時々カタカタと戸を揺らす音にさえ身体が震えるほどの、計り知れない恐怖。
新しく贈られた着物を、私は勢いよく地面に叩きつけた。
「こんなの、要らない…！」
震えながらに見上げて睨みつける相手は、人外。目を六つ持った、侍の格好をした男。その名を黒死牟。
ある日私を攫ってから、ずっとこの男は私をこの薄暗い部屋の中に閉じ込めている。
黒死牟は黙ったまましゃがみこんで、ゆっくりとその着物を拾った。
「…何故、要らないのだ…。好みの柄では…無かったか…？」
もう周囲には十何着と着物が散らばっている。全て黒死牟が贈ったものだが、私が感謝の念で受け取って身につけることは絶対にない。
私の睨みを聞かせた目など、仔犬の瞳くらいにしか思っていないのだ。その証拠に彼は少しも動じる気配なく顔をのぞき込む。
「何を望む…？お前は…何を望んでいる」
その六つの瞳に見つめられると、洗脳されてしまいそうな不安に襲われるのだ。
それでも私は歯を食いしばり、恐怖に耐えながら喉から声を振り絞る。
「…自由を、貴方から逃れる、自由を…」
囚われて以来、初めて口にした本能的欲求。腰の刀で斬られるかもしれない。想像すると身体の奥からえも言われぬ恐怖がふつふつと現れる。
しかし黒死牟は激しく憤慨する訳でもなく、ピクリと片眉を上げて首を振る。
「…それは無理な話だ。
お前は…私の傍にいれば良い…。あの男ではなく…、私の傍に…」
時々黒死牟が口にする"あの男"とは、誰の事なのだろう。私は誰とも祝言を上げていないというのに。
相手の言い分も聞かずこんな薄暗い部屋に閉じ込めているというのに、壊れ物を扱うように私の頬を撫でる。その手つきにほんの一瞬でも"愛されている"と勘違いしてしまいそうになるほど。
「…お前は、どうしたら私を愛する…」
時々、彼はその異様な顔を、まるで人間のように歪めて切なげな表情をするのだ。
わからない。その台詞の答えも。貴方自身の本心も。
何だか切なくなって涙を流し始めると、黒死牟はそっと胸に納めた。
「泣くな」とゆっくり頭を撫でる手を、振り払うことが出来なかった。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます！好きと言って頂けて嬉しいです！続編の方も是非ごらんください！ (2020年1月5日 17時) (
レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…（死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます！実弥ですね！実弥らしいお話ですね…！精一杯書きます！ (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます！煉獄さんのリクエスト嬉しいです！ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…！ (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あろま
| 作成日時：2019年9月25日 17時
