晴れと未来 ページ49
「ママ!ママ!」
くいくい、と誰かがエプロンの裾を引っ張る。顔を上げると長男と次男がじっと見上げていた。
「パパ帰ってきた!」
「え、本当?」
フライパンの火を止めて、すぐさまスリッパでパタパタと玄関へ向かう。
玄関では末息子が杏寿郎に片腕で担ぎ上げられていた。はしゃぐ末息子の姿に笑みを零すと、続いて長男と次男が突進する。
遺伝子というのは恐ろしいもので、生まれてきた息子たちは皆杏寿郎にそっくりだ。
ただいま帰った、と片方の手で息子たちの頭を撫でていた杏寿郎だったが、不意に此方を向いて目を細めて微笑んだ。
「ただいま、A」
「おかえり、杏寿郎」
「今日も俺の妻の作る飯は美味かったな!」
ソファに腰掛け、満足そうに笑いながら私の肩を抱き寄せる。
もう息子たちは子供部屋に向かって、今頃は夢の中だろう。
「さつまいものお味噌汁、また作るから」
わっしょい!わっしょい!と喜ぶ杏寿郎に合わせて息子たちもわっしょい!と叫ぶものだから笑ってしまった。
「うむ!そうしてくれ」
前世の記憶を持って生まれて、やっと出会えて、それから結婚をして、こうして3人の子宝も頂いた。
正に、前世のときに夢見ていた生活が訪れた。この世界では当たり前の幸せかもしれない。なのに、それだけで涙が溢れそうになる。
「ねぇ杏寿郎。私…今すごく幸せなの」
もっと存在を感じたくてする、と擦り寄ると、杏寿郎も腕を抱く力を強くした。
「そうか。…うむ、俺もだ。しかしA。俺は少々欲張りなようでな」
抱いていた腕がぐ、と私を杏寿郎の方へと向かせる。片方の手で私の手に手を重ねると、杏寿郎は耳元で囁いた。
「…女児が欲しいんだ。Aに似た女の子が」
「…っ!」
甘い、低い囁きに、心臓がきゅんとする。一気に体温が熱くなって、もう頭は杏寿郎の事しか考えられなくなっていた。
「Aさえ良ければだが、今夜…いいだろうか?」
あぁ、狡くて優しい人。逃げ道は作ってくれるけど、決して逃がしてくれないの。
「私も、そう思ってた…」
なんだか恥ずかしくて小さくそう答えると、杏寿郎はとびきり大人びた表情で「そうか」と微笑む。
「とびきり優しくする」
「…ん、そうして」
見つめあって、お互い唇を重ねる。離してから自然と笑みが零れて。
──────やっと訪れた幸福に、二人一緒に暫く浸っていた。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時