晴れと始まり ページ45
──────ちゅん、ちゅん
小鳥の鳴き声がする。温かな陽光がさし、杏寿郎は身をよじった。
薄ら、重たい瞼を開ける──────すぐに杏寿郎は、その"現実"に気づいてしまった。
「──────A…?」
昨夜あれほどまで愛した女は、何処にもいなかった。髪の毛一本すら落ちていない。
「…あぁ、そうか。Aは、消えてしまったんだな…」
「杏寿郎」「杏寿郎」と何度も縋るように名前を呼んだAは、もういない。
どんなに手を伸ばしても決して届かない場所へ行ってしまった。
自然と涙が溢れていた。杏寿郎は心身ともに鍛えていたから、泣くことなど全く無かった。
それなのに、涙が止まらない。
Aが生きているだけで、触れることができるだけで、自然と涙が出たのだ。
愛する者を失うのはこんなに苦しいのか、と。生前の父とAの絶望を、杏寿郎はやっと知った。
奈落の底へ突き落とされたような絶望に、杏寿郎は下を向いた。霞む視界の中、キラリと光るものを見つけ、顔を上げる。
「これは…」
陽光を受けてきらきらと輝いていたのは、Aの簪だった。
『Aの結った髪に似合うと思ってな』と杏寿郎が渡した簪。
「A…」
手に持つとちりん、と鈴が軽やかな音を立てた。
小さな光である筈なのに、杏寿郎には力強く輝いているように感じた。──────まるで、杏寿郎に「生きて」と言わんばかりの温かさも感じる。
「あぁ、俺はこの世界で生きていく」
杏寿郎は簪を優しく包み込みながら上を見上げた。
「Aがいない世界で。Aの事だけを生涯、愛し抜くことを誓う」
Aが俺の事を、俺が死しても尚、愛してくれていたように。
「生まれ変わったら、今度こそは、ずっと」
ずっと一緒にいよう、A
─────────────────────
【煉獄杏寿郎】
──年、5月10日生まれ。享年──歳。
にわかには信じがたい事だが、──代目最後の炎柱である煉獄杏寿郎の生まれ変わりである。
幼少期から文武両道であり、剣術の大会では何度も名を馳せた人物である。
煉獄家の書物から独学で全集中の呼吸を身につける。
勉学と剣術を教える熟を開き、多くの生徒を集めた。
尚、未婚の為直系の子孫はいない。生涯でただ一人の女を愛したという噂がある。
─────────────────────
236人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時