雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

晴れと再会 ページ41

杏寿郎がそっと手を伸ばす。「A」と名前を呼んで、両頬を包み込むと、Aは子供のような泣き顔を杏寿郎に向けて、力なく何度も胸元を叩く。



「なんで、なんで死んじゃったの…！？なんで、なんで生きて帰ってきてくれなかったの…！？」


「すまん…。本当にすまない。上弦の参にやられてしまった」



鳩尾の傷跡の痛みはいつの間にか消えていた。あの傷跡は、俺に前世の記憶を思い出させるためのものだったんだ、と杏寿郎は初めて理解した。


「でも今、ここにいる。帰ってきたぞ。ただいま」


嗚咽を漏らして泣くAを落ち着かせたくて、頬を撫でながら微笑むと、Aは杏寿郎の温かな手に手を添え、頬擦りをする。心から安らいでいるAの表情に、杏寿郎は鼻の奥がツンとした。きゅう、と胸が締め付けられた。






「でも、記憶が無くなっても、生まれ変わっても…」






瞬きをすると、Aの瞳から桜がはらはらと散った。涙が雲から覗いた陽光を受けて宝石のようにキラキラと輝く。


──────そんな光景の中、Aは愛おしそうに目を細めて微笑んだ。









「ちゃんと、私の元へ帰ってきてくれたんだね」










幽霊の私を、杏寿郎だけが見つけて。記憶はなくてもちゃんと、何年経っても、私の元に来てくれた。



──────10年前の今日、俺はAに初めて出会った。否、"再会"したんだ。




きちんと、番傘をさして待つAの所へ、帰って来れていたんだ。






「遅かったね、待ちくたびれちゃったよ」


ふふ、と笑うAに「はは」と心から幸福を感じで笑う。


そうして、その華奢な身体をぎゅう、と強く包み込んだ。









「ただいま、A」
「杏寿郎、おかえり──────」









やっと、帰ってきてくれた。(帰ってこれた。)

晴れと答え→←ある鬼の過去の話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す