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雨と文 ページ37

また、Aも何も言葉を発しようとしなかった。互いに何を話せばいいのか分からなかったのだ。


…否、それもあったが、それだけではない。言葉なんか要らなかった。互いが互いの存在を感じ取るだけで、少なくともこの二人にとっては居心地がよく、最大の安らぎと幸福であったのだ。


杏寿郎はAの存在を感じながら景色を眺めていた。遠くの山まで見渡せる程の霧のうすさ。ポツポツ、雨が柔らかく降り注ぐ様子に杏寿郎は呟く。






「いつ、雨は止むのだろうか」






杏寿郎の現実世界ではそうでなくても、Aの世界ではもう毎日雨が降り続けていることになっている。毎日が雨の世界。


しかし止まない雨はない、とよく言う。冬がくれば春が来るように、世界は回っている。諸行無常なのだ。


──────だから、きっとAの世界もいつか晴れる。きっと、そうであると願いたいと心から思う。



「いつ、止むのかな…」



Aが不意に傘を持ち直すとガサ、と布と紙が擦れるような音がした。不思議に思い、杏寿郎はAを見れば、胸元から封筒の端が顔を出していた。



──────どくん、その封筒に、心臓が跳ねる。



「…それはなんだ?」


杏寿郎は静かに問うた。杏寿郎の問いにAは「それ?」と首を傾げる。


「胸元の…、それだ」


「これ…、見覚えがないわ。なにかしら」


ゆっくり、短く切りそろえた爪が美しい指がす、と引っ張る。







「──────文…ではないのか?」








じっと見つめていると、Aは確信を突かれたような表情をして、震える手で文を引き出した。



その文は、黒い染みが飛んでいて──────それの染みが何であるか、優に想像ができた。


Aはその封筒を手にするとゆらゆらと桜色の瞳を揺らし始めた。



「あ…、これ、これは…」



弾かれたようにAは封筒から文を出した。長い文のようで、手に持つと手紙の終わりが宙へとぶら下がる。


見たことも無い手紙であるはずなのに、俺は"確かに"その手紙を知っていた。





全身が心臓になったかのように、炎の呼吸を使うように



──────どくん、どくんと鼓動を打ち始めた。

ある男の手紙→←雨と十年間



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設定タグ:鬼滅の刃 , 鬼滅 , 煉獄杏寿郎   
作品ジャンル:アニメ
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時

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