雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

雨と傷跡 ページ21

稽古を終えて家に帰り、母に風呂を勧められ風呂場へと向かう。


学生帽を脱ぎ、学生服を脱いだところで杏寿郎は目を見張った。






「…なんだこの、傷跡は…」






姿見に映るのは、16歳にしては鍛え抜かれた杏寿郎の肉体である、が──────その鳩尾にまるで穴を開けられたような傷跡が薄らと浮かび上がっていたのだ


触っても痛くないが、今日痛みを感じたのは確実にこの部分だ。




「なんなんだ…」




その部分に手を当てると、心臓がどくどくと早くなるような感覚を覚えた。まるで全身の血が沸騰しているようだ。


どくどくどくどく、早鐘のような鼓動は鳴り止まなかった。









それからその傷跡はどんどん跡が濃くなっていった。両親に見せぬようになんとか隠していたが、弟には見つかってしまった。


「兄上、傷は痛みませんか？」


「あぁ、今日は痛まない…、。本当にすまんな、お前にばかり迷惑を掛けてしまう」


まだ小さな弟の頭を撫でると顔を赤らめて俯いてしまった。可愛らしくしっかりした自慢の弟だ。


「あ、兄上、実はですね」


打って変わって真剣な表情をした弟が顔を上げると同時に父が杏寿郎を呼んだ。


「あぁ、父上が呼んでいる。なんだ？」


「あ…いえ、大したことではないのです」


弟のぎこちない笑みが気になった杏寿郎であるが、特にそれ以上は問いかけずに父の元へ向かった。


「あの傷跡は…、確か兄上が名前を受け継いだ方の…」


かつて弟は父の部屋で目にしたことがあるのだ。"煉獄杏寿郎"の死因を。


──────鬼の腕によって鳩尾に穴を空けられたと書物には記されていた。



「そんな、そんなまさか…」



弟は突飛な予想を振り払うように頭を振ったのであった。









杏寿郎は毎年恒例のあの雨の日を、地域一古く大きな稽古場で過ごしていた。


今日はこの地域での剣道大会であり、剣道場で代表を務める杏寿郎は参加することになっていたのだ。


杏寿郎はAを忘れるかのように試合に没頭した。しかし今日は一段と鳩尾の傷跡が痛むため、力の加減が安定しない。


それでも杏寿郎は竹刀を振るった。相手の頭部に鋭く素早い一撃を当て、杏寿郎は勝利した。


熱くなる血液とどくどくと高鳴る心臓を抑えるかのように深呼吸をしていると、老年の男性が声を掛けてきた。



「お前さん…、全集中・炎の呼吸が使えるのかい？」

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