雨と恋仲 ページ15
奥の客間に通され、杏寿郎は座布団の上に座った。
粗茶と茶菓子をちゃぶ台の上に置くと旦那はゆっくり腰を下ろした。
「つまんねぇもんしかねぇが」
「いえ、そんなことはございません!頂きます」
茶柱が2本立つ粗茶に口をつける。じんわりと苦味と香ばしさが喉へ伝わる。喉の乾いていた杏寿郎にとっては美味かった。
「まさかなぁ…、煉獄杏寿郎の名を継いだもんが現れるとはな」
茶を啜る杏寿郎を見ながら旦那はため息をついた。
「それに…まぁ煉獄家の男子は代々容姿が似通っちゃいるが、あんたは"本人"そっくりだよ」
そう言いながら旦那はかぱりと和紙でできた古い箱を開けて1枚の写真を取り出した。
「あんたが知りたがってんのはこの女のこのだろう?」
目の前に差し出された1枚のモノクロ写真を見詰める。
──────そこには、桜の木の下で寄り添い合う、自分そっくりの男とあの女が映っていた。
鬼殺隊の隊服を着て炎のような柄が施された羽織を肩から下げた男が女の腰を抱いて幸せそうな明るい笑顔を浮かべている。
そうして──────そんな男に寄り添いながら微笑むのは、あの女だ。
韓紅色の着物、結われた艶やかな髪の毛、優しげな面立ち──────全部全部、あの女だった。
息をすることも出来ずに写真を見詰める杏寿郎に旦那は重々しい口を開いた。
「…その女は俺の爺さんの妹だった。
名前は和泉A。…写真の通り──────
煉獄杏寿郎と恋仲だった女だ」
杏寿郎は必死に思考回路を保っていた。呼吸が乱れぬように、一所懸命に肺を動かしていた。
熱くなる頭がクラリとする──────でも、杏寿郎はよろけなかった。
激しく動揺しながらも必死に平静を保とうと尽力する杏寿郎を見ながら男は言葉を続ける。
「爺さんに幼い頃から聞かされててな。『煉獄家の者が来たら妹の事を教えてやってくれ』ってな。
…まさか同姓同名の奴が来るとは。おい坊主、覚悟は出来てんのか?」
ハッとして顔を上げると真剣な面持ちの旦那が此方を見詰めていた。
ここまで来たんだ、引き下がれるはずは無い。
「よろしく、お願いします」
丁寧に頭を下げる杏寿郎にこくりと頷いて旦那は窓の外の空を見上げた。
「あれは大正初期の頃──────」
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時