雨と真実 ページ13
杏寿郎は千寿郎に「すまない千寿郎。お前に嘘をつかせる兄を許してくれ」とひと言告げてあの民家へ向かった。
千寿郎は杏寿郎が家から抜け出してあの民家を訪れたことを出かけた両親には言わないだろう。
初めてだった。両親の言いつけを破ったのも。自分が嘘をつくならまだしも弟につかせてしまったことも。
──────そして、杏寿郎を強く動かす女の存在も。
曇り空の下、女がいつも佇んでいる場所には何も無い。矢張り女はいない。
杏寿郎はその場所に目をやりながら足を進めた。門の前に立つ。
門から覗くと、庭は雑草だらけだった。こじんまりとした民家にはいくつも蜘蛛の巣が張っていて、補強もしていないため屋根が崩れたりしている。
杏寿郎は深く深呼吸をしてから門の中に足を踏み入れた。
生い茂る草をかき分けながら進む。がた、と玄関戸に手を掛けるも、開く気配がしない。恐らく地震のせいで立て付けが悪くなったのだ。
申し訳なく思いつつぐ、と力を込めて動かすと戸は開いた。埃が舞って杏寿郎は思わず咳き込んだ。
まだ昼間だというのに家の中は曇り空のせいで薄暗い。「お邪魔します」そうお辞儀をして杏寿郎は足を踏み入れた。
家の中は外観の通り決して広くなかった。
大きな居間があり、その他には作業場だろうか、埃を被った裁縫道具や生地が広がっていた。
(矢張りここはあの人の……)
何故こんな簡単なことにもっと早く気づかなかったんだ、と杏寿郎は頭を痛めた。
そのまま注意を払って家の中を進んでいると奥の部屋に辿り着いた。
小さく、最も日が当たらず薄暗い部屋であるが、しかし杏寿郎は全く恐怖も不安も感じていなかった。
ゆっくりと襖を開けると、床には数滴の血痕が残っていた。
「……!」
目を見張る杏寿郎の目に映ったのは、荒れた室内。
西洋の人形や手鏡、化粧道具、着物が散らばっている──────明らかに若い女の部屋である事がわかった。
そうして部屋の中に残る刃の後。
奥の壁には壁を掻きむしったかのような鋭い爪の跡。
杏寿郎はこの部屋で起きたことを想像し、サッと顔を青ざめた。
そうだ、そういうことなのだ。
──────鬼である女は、ずっと前にこの部屋で鬼狩りに殺されたのだ。
杏寿郎は目眩を覚えてよろめいた。丁度棚に身体がぶつかり、ひらりと何かが舞う。
床に落ちたそれは【和泉屋】と刺繍された手布だった。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時