小説の国。 ページ1
小説の国。
俺が生まれ育った愛すべきこの国はそう呼ばれた。
全てが小説で決まるのだ。
国家権力を握るのは一昨年のコンクールで優勝を勝ち取った二十歳ぐらいの男性だった気がする。
その補佐をするのは昨年音楽コンクールで優勝を勝ち取った三十代半ばの中年男性。
いつからそうなのかは分からない。だが、この国は俺が生まれた時から__俺が生まれるよりもずっと前からそうだった。
芸術こそが全て。
自分の好きな方向に芸術の才能を開花できればそれで良し。
権力も、財産も、地位も、何もかもが芸術が全て。
だが、その芸術と称される中でも主に「小説」が全国民から愛された。必要とされている。
小説の重要度が最大となっているのだ。
そのため、他の国ならば小学校六年間で勉強の基礎を学び、中学校三年間で進学のための勉強を学び、それぞれが進むべき高校等で進学もしくは就職すべく学ぶ。その後は自分の好きな方向へと。
これが他国一般の進み方なのだろう。
だが、俺の国は違う。
小学校三年間で学ぶことは漢字、読書。
常用漢字を殆ど学び、読書に親しむ。読書が殆どの授業。
中学校四年間で学ぶことは文章、読書。
更に複雑な漢字を学ぶ事、そして文章に慣れ親しみ、その文章の解読をすること。更にワンステップ上の読書に親しむこと。
高校二年で学ぶことは執筆、感性。又は作家として生きるか。
高校に入ってようやく少しばかりの執筆を行う。そして自身の感性を磨き、他人の感性をも取り込もうと学ぶ。
又は、才能のある見込まあれた者が作家として生きていける。
「優、私さ。もう執筆辞めようと思うの」
目の前で端末を弄る幼馴染でありながら彼女である桜庭Aがそう、ポツリと零した。
「執筆を辞める」すわ「生きることを辞める」と言うこと。
その言葉に俺はただ呆然とするしかならなかった。
「何かね、疲れちゃった」
呆れたように自嘲気味に笑いながら天を見上げる彼女の横顔は何だか悲しげだった。
疲れたなら休めばいいだけなのに、何故辞めよう、だなんて言うものか。
俺にも執筆の大変さが分かるよと高校まで経験して来た身からすれば言えるのだが、彼女の前ではどうもそうは行かない。
だって、俺は音楽の道を選んだのだから。
そして彼女は小説と共に生きることを選んだのだから。
今まで「教育」として受けてきていた小説が「義務」「人生」へと変わった彼女にはそんな安易な言葉が投げかけられる筈がなかった。
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ちょこ - とてもよかったです!二人のその後話が欲しい! (2019年12月11日 1時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
円(プロフ) - 初コメ失礼します!語彙力が壊滅的にないので一言で言わせてもらいます()ものすごく感動しました!これからも執筆(?)頑張ってください!! (2019年6月5日 22時) (レス) id: eaf14dff11 (このIDを非表示/違反報告)
shizukuraitosor(プロフ) - う…わぁ…これ…すごい…感動しました…(なんか、語彙力なくてごめんなさい…) (2019年5月30日 18時) (レス) id: 4dff7efeca (このIDを非表示/違反報告)
どんにゃす(プロフ) - 素敵なメッセージも入っていて面白かったです。これからも頑張ってください! (2019年5月24日 15時) (レス) id: d8dc6de289 (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - 空っぽのコップさん» わぁぁありがとうございます(; ;) 伝わって良かったです……!これからも頑張らせて頂きます! (2019年5月24日 12時) (レス) id: a183fb70e9 (このIDを非表示/違反報告)
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