【MHA】私が「神」とは世も末だ

編入と不審者と私 ページ3

かしこまったチャイムが過ぎたとき、まだ聞き慣れない声が、私を教室内へと促した。

＿＿2学期開始、初日。
私は、今日より雄英高校ヒーロー科1年A組に編入する。
同じ敷地内にしても、今まで普通科で過ごしてきた私にとって、これは大切な分岐点であり未来への道標となる。

それに……これを機に、少しでも自分の"個性"を好きになれたらいいだなんて。

なんだろう、喉奥に何かがつっかえたように歯痒い。それはきっと、緊張と……淡い期待だ。
私は廊下の空気を思い切り吸い込み、教室の扉を開けるとともにゆっくりと吐き出した。

＿＿行こう。

「じゃ、まず自己紹介な」

合理的主義者と噂の相澤先生が、急くように私を横目で見た。
息と声の狭間で「はい」と答えてから、私は新しいクラスメイト達の方を向いた。

途端、色とりどりの髪や肌が視界に飛び込んできた。流石ヒーロー科、"個性"の幅も広く、容姿端麗な人もいっぱいだ。
ここには、生まれつき派手な人が多いのだ。

すなわち、私の"個性"など屁でもない！
脳内のスケジュール帳、9月1日の欄に「A平凡化記念日」の文字が書き込まれる。

茶番？今だけは大歓迎だ。
私が胸中で珍しくテンションを急浮上させている中、新しいクラスメイト達は期待を込めたような瞳でこちらを見ている。

さぁ、私はここで普通に過ごすのだ。周囲から「神様」と呼ばれることもなく、対等な関係を築きたい人から「神士さんとはきっと感覚が違うよ」と言われることもなく。
皆と対等な関係を築き、控えめに過ごすのだ。

「えっと……神士 Aと言います。編入で緊張していますが、皆さんと仲良くなれるよう、少しでも強くなれるよう、何事も努力していきます。宜しくお願いします」

僅かに裏返った声が、痛いくらいに始まりを告げている。一拍置いて、弾けるような拍手が沸き上がった。
それにしても流石ヒーロー科、皆いい人そうでよかった。

……あれ、1人目が死んでる人がいる。
見たことあるなぁ、名前はなんだっただろうか。

「おい峰田、そんな落ち込むなよ！」
「だって……だってぇ……いつどの時代のラブコメだって、編入生は美人でボンキュッボンだろ！」

……嗚呼、峰田君か。うん、今の言葉は聞かなかったことにする。
きっと彼はボンキュッボンがお好みなんだろうな。なんかごめんね。それにしても、その目の死に方は最早不審者だよ。宜しく峰田君。

そんな切ない茶番を展開しながら、私の新生活は幕を開けた。

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