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義勇に「鬼殺隊に入る」と宣言した日から、食材の買い出しの道すがら走ってみたり、義勇がいつも屋敷でしていた鍛錬を真似てみたり、自分なりに修行というものを始めたAは、想像以上の過酷さに半分心が折れそうになっていた。
行商を生業にしていたので体力には自信のあったAだが、特に義勇が屋敷で涼しい顔をしてやっていた鍛錬などは、息も絶え絶えになるほどに苦しく、誰かを護るなどという域に達するにはまだまだ時間を要するということを痛感していた。
炊事洗濯はほどほどに、とにかくまず体力をつけねばと自分を追い込むAだったが、たった一週間ほどでめざましい成長などするはずもなく、Aは何の手応えも感じることができないまま義勇の療養先からの帰宅を迎えてしまうのだった。
「義勇さん、おかえりなさい」
「…ああ」
鬼殺隊の話をしてからというもの、元々少なかった義勇の口数はさらに減り、側から見れば仲違いでもしているのかと思われそうなほどだったが、Aは義勇が自分を心配してこその行動なのだときちんと理解しており、特別無理に話しかけることもしなかった。
「今日の夕食は、鮭大根ですよ。今日義勇さんが帰ってくるんですって話をしたら、大根も鮭も安く譲っていただけて」
久々に義勇が帰宅したことに少なからず喜びを感じているのであろうAは、心なしかいつもより饒舌だった。
「羽織や隊服も、勝手にですが直しておきました。血も綺麗に落ちたんです」
なんの反応もなく一見聞いていなそうな義勇だったが、Aが話し出すと一瞬動きを止めてAを一瞥するので、Aはちゃんと話を聞いてもらえているというその事実だけで、充分に幸せを感じる。
「…痩せたか」
それだけ言って歩き始める義勇に、Aは一瞬意味が分からず義勇に目を向けるが、すぐに笑顔になって「最近動いているので、身体が引き締まってきたのかもしれません」とだけ答える。
「お前に鬼殺隊など無理だろう」
「遠い道のりであることは、自覚しています。明日から、少しでいいので私に稽古をつけてくださいませんか」
「無理だ」
「ご心配していただいているのは分かってます。無理は、しません」
Aの言葉に、何か考えるようにしばらくじっとAを見つめた義勇は、そのまま何も言うことなく自室へと戻って行ってしまったのだった。
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チーズ(プロフ) - レインさん» コメントありがとうございますー!!不器用、じれったいをモットーにして書いたものなので、そう言っていただいて嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございます! (2019年12月17日 21時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - 義勇さん不器用すぎていつ、くっつくんだ!早くくっつけ!クソッ!!見てるこっちがなんかアレだ!!(語彙力) 面白い!! 完結おめでとうございます! (2019年12月17日 20時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - たまごさんさん» 最後までお付き合い頂きありがとうございます!!そうだったんですね!嬉しいです!次作でもどうぞよろしくお願いします! (2019年12月1日 7時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
たまごさん(プロフ) - はああ・・・やはり良きです・・・完結おめでとうございます!!無惨様の作品は知らず知らずのうちに見ていました!!好きだなあと思って、作者誰だろ?と下にスクロールしたらまさかの・・・。僭越ながら次作でも応援させていただきます!! (2019年12月1日 0時) (レス) id: 8760f7a678 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - orangeさん» こちらこそ、最後までお付き合い頂きありがとうございます!ぜひ書かせていただきます(^^)もうしばらくよろしくお願いします! (2019年11月30日 23時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2019年11月13日 13時