夜はまだ明けない 【冨岡義勇】

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せっかく寝る前に義勇に会えたのだからとAは必死に話題を探し、そういえば今朝、炭治郎から手紙が届いていたことを思い出す。

「…炭治郎が、最終選別を無事終えたそうですね」
「ああ」
「炭治郎は、義勇さんと同じで優しいから…。鬼殺隊での任務は、辛いことも多いでしょう」
「…それは、Aもだろう」

自分に背を向けたままの義勇のその言葉に、Aは義勇の表情が見えず、抑揚のない声色からは何の感情も読み取れない。

「…義勇さんを失うこと以上に、辛いことなどありません」

義勇の背中を見つめながら言ったAのその言葉に、義勇はAの表情が気になったのか、ようやくAに顔を向ける。

「…私に、義勇さん以上に大切なものなどないんです。だから…今のこの状況は、とっても辛いです」
「何のことだ」
「私に、至らない点があるのなら教えてください」
「別にない」
「じゃあ、どうして避けるのですか？辛いです、すごく。義勇さんが好きなんです。…好きなんです」

恋仲になったばかりの頃はなんとなく曖昧だった義勇への気持ちも、この一年間避けられ続けるうち、この気持ちは確かな義勇への恋心なのだと、Aは強く自覚していた。

「……」

Aの想いを聞いても、無言のまま戸惑ったように視線をさまよわせるだけの義勇は、そのまま何も言わずに再びAに背を向ける。

「…何も無いままなら、引き返せる」
「え…？」
「いつか…お前が本気で添い遂げたいと願う相手に出会った時、…今のままなら俺は、身を引ける」

そう言って、静かに立ち上がった義勇は、Aの呼び止める声を無視して、さっさと部屋を出て行ってしまった。

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