【文スト】中原中也の奮闘記録

善しか悪しか ページ30

.


―――如何した私


中原君を追い出してからずっと繰り返す自問自答

まともに彼の顔が見れないのだ


おまけに触れられた所が熱い


『………こりゃ拙いなあ…』



若者の言動行動に一喜一憂して佳いような年じゃないんだけど…

取り返しがつかなくなる前に、なんとかしなきゃ



気を抜いたら脳裏に浮かぶ数時間前の中原君を、払い除けるようにぶんぶんと頭を振った



――ところで、なんか躰怠くない？


真逆とは思うけど本当に熱あるの？私



『………』


いやいや、真逆、寝不足に加えて熱なんて、そんなにタイミング善く体調を崩されては困る


只でさえ今は中原君の顔を見るので一杯一杯なのに

熱出ました起きる気力ありませんじゃあ彼に看病されるのは必至である


それだけは避けなきゃいけない


普段世話されっぱなしだったのが裏目に出てるよ、こんなに彼に世話されるのを望まなかったのは初めてだ



『はぁー、困ったなあ…』



そんな独り言をぽつりと零した時だ


余り鳴る事のない、私のスマホが着信を知らせた


ちらりと覗いた液晶には�� 森 鷗外 �瓩函�意外な人物の名前が表示されていて



―――出なきゃ駄目かなあ…


至極気の乗らない着信の相手に、応答ボタンのタップを躊躇う


が、いつまで経っても鳴り止まない其れ


根負けしたのは私の方で、諦めの溜め息と共にスマホを耳に当てた





＊





短い電話を終えた私は、部屋を出て廊下を進んで、小綺麗なエレベーターに乗り込んだ


そして最上階のボタンを押して、扉が閉じ切る間際

ガンッと、其の隙間に見慣れた黒の革手袋が挟まった


当然、障害物を感知した扉は再び開く



厭な予感をひしひしと感じつつ、其の向こうから現れる人を見上げた




「――よォ、手前は又何処に行く気だ？」

『……毎回タイミング完璧だよね、中原君…』


.

一発逆転→←珍しい

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す