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「ほんまは、運動部の話もあってんけどな。」
「……じゃあ、なんで美術部？」
「んー……女子が騒いじゃうでしょ。俺のこと見つけたら。」
「……え？」
「マジで。グラウンドで名前呼ばれたりとか、下の名前で手振られたりとか。俺、そういうの苦手やねん。
こっちの方が、静かでええやろ？美術部、落ち着いてて好きやで。俺は見てるだけでいいくらいやし。」
先生はそう言って、窓の外を見た。
その横顔はどこか飄々としてて、子供の私には何を考えてるか分からない。
「ほな、活動始めてなー。あんま口出しせーへんけど、見とくから。出来ひんの間違いか。俺、絵心ないし。」
独り言なのか話し掛けているのか分からないニヤニヤ笑う先生をよそにみんながキャンパスに向かい筆を進める姿を見て、みんな冷たいなと言いながら再び校庭を眺めている。
「ん〜……この色、もうちょいだけ濃くしたいんやけどなあ。」
私はキャンバスに向かいながら、小さくつぶやいた。
ちょっと筆の色味が思ったより濃すぎて、調整に悩んでた。
「この色……次は薄すぎる、かな？」
私はキャンバスの前で、少し首をかしげた。
花びらを描いていたけど、どうしても思うような色が出ない。
「Aちゃん、集中してんな〜。」
背後からふっと声がして、肩がビクッとなる。
振り返ると、そこには末澤先生。
「あ……先生。」
「やっぱ美術部ってええわ。
静かやし、絵描いてる子はみんな真面目やし、かわいらしいし。」
「……軽いですね。」
私がちょっとだけムッとして言うと、
先生はケラケラと笑いながら、私の隣にしゃがみ込んだ。
「その色、何描こうとしてんの？」
「花です。桜、描こうと思ってて……でも、どうしても色が浮いてしまうんです。」
「へぇ〜桜か。春らしくてええやん。
……んー、でもたしかにちょい薄いな。
白混ぜすぎたんちゃう？あと、赤が足りん気もするわ」
そう言いながら先生は、パレットを指先でトントンとつつく。
その手元に、自然と私も目が行く。
細くて長くてピアノ弾きのような節の少ない、しなやかな手。
女性的な手の形をしているのに手首から腕にかけて見える浮き上がった血管が、しっかりと“男”を主張していた。
(手、大きいな……)
しかも、指先に少しだけついた絵の具も、
どこかサマになってるのがまたずるい。
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作者名：愛生 | 作成日時：2025年6月9日 1時
