最強をダメにする最弱：１

幸せを探す旅 ページ42

『…貴方が私を、殺すからですか？』
「…」
『そうですね…そもそもが私の失態が招いたことというのもありますが…』

目を閉じて、カタクリ様と出会ってからの3日間と、それまでの人生を想う。

『私はやっぱり、幸運でした』

断言する。私は、カタクリ様に出会えて良かったと心の底からそう思う。

「昨夜もそう言っていたな。おれは確かにお前の望みを聞いてやった。だが、おれに出会わなければ、お前はより多くの人間に菓子を作ることが出来たんじゃないのか」
『違うんです、カタクリ様』
「何…？」
『私は不特定多数の笑顔ではなく、ただ一人、貴方の笑顔が見たかったんです。…そうだったのだと、あの日に気付いてしまいました』
「な…っ馬鹿を言うな。お前はおれのことを殆ど知らなかったはずだ」
『ええ、そう。そうなんです。でも私、きっとずっと探していたんです。貴方を。貴方のような人を』
「どういうことだ…？」
『…お菓子は、人を幸せにするものです。私はそう信じてきました。…けれど』
「…」
『笑って欲しくて、幸せになって欲しくて磨いた腕は、いつしか、お金に替わるようにようになってしまいました』



私は申し訳なさから眉を下げる。あまり人に聞かせるような話でもないのだけど。

『お金なしには生きていけませんしお菓子も作れませんから、私もお金がちっとも欲しくないというわけではないんです。でも、“私のお菓子が美味しいから”ではなく“私のお菓子がお金になるから”私にお菓子を作って欲しいと、そういう人が、増えてしまって』

『お客様も、ただ純粋にお菓子を喜んでくれるという風ではなくなってしまいました。それがすごく私は…寂しくて』

贅沢な悩みだとは分かっているんですけど、と挟んで続ける。

『だから、もう一度ただお菓子を愛して、ただ幸せになりたかった。そうして辿り着いたのがトットランドで…3日前のカタクリ様です』

あの日の衝撃を私は決して忘れない。心を奪われた、あの瞬間。

『お菓子を食べてあんなに心底から幸せそうな顔をされる人を、私は知りませんでした。そして3日間、貴方のことだけを想い、貴方の為だけのお菓子を考えるのが楽しくて、幸せで』

知れば知る程、【幸せな顔が見たい】から【幸せになって欲しい】と思うようになった。そう思える方がカタクリ様だった。



『そして今、想像していた何倍もの幸せを貰って、満たされて、思うんです。
―私の人生はきっと、貴方という人に出会う為にあったのだと』

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