最強をダメにする最弱：１

貴方に贈るメリエンダ ページ37

『…うん、完璧！』

出来上がったドーナツの山を見て、私は安堵の息をつく。
準備は万端、自信もあった。けれどやっぱり完成した瞬間というのは大きな達成感がある。

(でもこれで終わりじゃない。これがゴールじゃない)

盛り付けも残っているけどそれだけでもなくて。
食べる人の口に届け、更に食べる人の喜ぶ顔を見て初めて。

『【家に帰るまでが遠足】ならぬ、【喜んでもらうまでがお菓子作り】…なんてね。前回盛り付けの時点で倒れてるんだけど…』

改めて考えると失態なんてレベルじゃない。
途中離脱、その上私という異物混入。食に携わるものとしてそれ失格では？

『…っ！』

頬を叩いて気合を入れ直す。今度こそ最後までやり遂げてみせるんだから…！



作ったドーナツは3種類。

冷めても、むしろ冷めてからが美味しい、とびきり甘いホイップクリームを挟んだクルーラー。

包み込むように柔らかい、しっとりもちもちの生地で練り上げたオーソドックスなグレーズリング。

温かいと更に格別な、リンゴとカスタードのクリームブリュレをクロワッサンで。

紅茶はドーナツの甘さを際立たせ、けれど甘さにもたれないようにレモンシトラスをベースにカモミールとオレンジピールをブレンドしたハーブティーを用意した。

盛り付けが終わり、メリエンダの15時まであと5分。持っていくお部屋はすぐそばだから、時間もぴったりだ。
私はドーナツの入ったバスケットとティーセットを台車に乗せて、厨房を後にした。

…

…

コンコンッ

『失礼致します、カタクリ様』

指定された部屋に入ると、そこには既にカタクリ様が壁に背を預けて待っていた。
人払いの甲斐あって、ここまでの道中誰にも顔を合わせることはなかった。

「…来たな」

ドーナツにちらりと視線を向けてから、カタクリ様が能力で社を造り上げる。

『わぁ…』

初めて見る社の外観。確かにこれは【社】という名にふさわしい。こだわりの強そうなデザインだ。

「では…」
『お待ち下さいカタクリ様』

ドーナツ達を移動させるカタクリ様に待ったをかける。
訝しげな顔をされるカタクリ様に、私は満面の笑みで進言する。

『今日のメリエンダは“全て”私にお任せ頂けるというお約束ですよね？』
「…ああ、そうだな」
『ふふ、ありがとうございます！それではカタクリ様？お召し上がりの姿を間近くで拝見させて頂く為にも』



そう。私の願いはもうひとつ。



『膝枕で召し上がって頂きます！』

「…………は!?」

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