最後にして新鮮な朝 ページ35
「厨房に連れて行く」
朝の挨拶から数時間の後、カタクリ様が私を迎えに来た。
クローゼットに戻ることはもう二度とないだろう。惜しむらくは、クローゼットで生活しただなんて突拍子もない話をする相手がいないこと。でもまあ、不思議な時間を特別な秘密として抱えて死ぬのも悪くない。
「これを着ろ」
手渡されたのはフード付きのケープ。
取り敢えず言われるがままに羽織るけれど、これはどういう意図だろう。
「今日はパティシエの審査ということで話を通してある。袋に入れて運ぶわけにはいかない。だが決しておれ以外の人間と出会っても口を開かず目も合わせるな」
『成程、承知致しました』
「時間になったら厨房の北側通路突き当りの部屋にドーナツを運んで来い。人払いはしてあるが、必ずこれを着用しろ」
念押しするカタクリ様に頷いてみせると、カタクリ様が扉を開けた。
『…』
一瞬、不思議な気持ちになった。
そういえば私は、この部屋から自分で出るのはこれが初めてだ。
不審に思われない内にそっとカタクリ様の背を追う。少しだけ冷たい外の空気が頬を掠めたけれど、フードの中は暖かい。
(まさか最後になって、こんな風に後ろを歩くことがあるなんて思わなかった)
カタクリ様の背を見上げながら思う。
そして気付く。カタクリ様は大柄で、深夜に連れて行って貰う時も大きく動いていた気がするのに、今私はほんの少し足を速めるだけでついていけている。つまり、カタクリ様が私に合わせて下さっているのだ。
私が遅れたから合わせるのでなく最初からそうして下さっているということは、きっと歩幅の違う相手と歩く時はいつもそうなのだろう。御兄弟や部下の方々と。
(…本当に、知れば知るほど)
貴方は眩しい。
「食材は揃っているか?」
『はい。お願いしたものは全て。ありがとうございます』
厨房に到着すると、既に大量の食材が調理台の上に並んでいた。ゆうに50人前くらいだろうか。漏れはひとつもない。
私はカタクリ様に向き直って、本日のメインイベントについて確認する。
『カタクリ様。本日のメリエンダは全て私にお任せ頂けるのですよね?』
「?当然だ。お前がそれを望んだんだろう」
『“全て”お任せ頂いてよろしいのですね?』
「何か企んでいるのか?…まあいい、好きにしろ」
『ええ!どうぞ楽しみになさっていて下さい!』
笑顔で押し切る私に訝しげな視線を投げながら、カタクリ様は厨房を後にした。
一方私は満足顔。これで準備は整った!
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雪見もち(プロフ) - 最近カタクリ様などハマりした女でしたが露木様の素晴らしい作品により一層好きが溢れて、ずっとニヤニヤしながら拝見させて頂きました!二週も読み直したお話は初めてです…!本当に素敵な作品をありがとうございました!! (2020年7月25日 20時) (レス) id: fce5f8b205 (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - 車輪さん» 車輪さん、ワンピースの世界へお帰りなさいませ!カタクリ様にはまられたとのことでおめでとうございます!(?)こちらこそ、出会ってくださってありがとうございます…!嬉しいお言葉ばかりで、読み返してくださるなんて感激です;;コメントありがとうございました…! (2020年4月25日 0時) (レス) id: 0b597cfcac (このIDを非表示/違反報告)
車輪(プロフ) - 数年追えていなかったワンピースを最近また追い始め、カタクリにドはまりして小説を漁っていたところこの作品に出合いました。続編も含め本当に面白かったです!読み終えてすぐに読み返しに入った夢小説はこれが初めてです。この作品に出合えて本当によかった…! (2020年4月24日 20時) (レス) id: b8a796d02f (このIDを非表示/違反報告)
露木アマナ(プロフ) - ヒロさん» ヒロさんコメントありがとうございます!尊いなんて嬉しいです;;ありがとうございます(;ω;`)もっともっとハッピーになるように頑張りますね! (2019年9月22日 9時) (レス) id: be3bf55a7b (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ - 読んでる間に尊さで何度昇天しかけた事か…………!こんなに尊い小説初めて読みました!最後のハピエンで無事尊死しました( ˘ω˘ ) (2019年8月17日 5時) (レス) id: a8a8fc489f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:露木アマナ | 作成日時:2018年6月8日 0時