[rain] ページ6
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シ「さっきの奴、彼氏だったんじゃないの」
「今はもう違う。見てたんでしょ？浮気されたの、三回も。随分前からうまくいってなくて、いい加減愛情のかけらも残ってない」
あの夜のように彼女の上へと傘を差し出しながら彼女の隣へと腰を下ろす。こんな雨の夜に道路の隅で大の大人が二人座り込んでいる姿は滑稽にも思えたけれど、彼女を追いながら胸を過ったのはあの頃の後悔ばかりで、あんな思いはもうしたくないという思いがシルクの足をここに留めていた。
シ「なんで逃げたの」
「いろいろ、説明すると長くなるかもしれないんだけど…一言で言うならあの頃絹張くんから逃げたのは春には留学が決まってたから。あの時はまだ子供で、遠距離恋愛なんて出来ないと思ったの。今は、よく分からない。ずっと会いたかった気もするし、会いたくなかったような気もする。…何だかさっきから質問ばっかり」
そりゃそうだろ、と唇を尖らせる俺に向けられた彼女の笑顔が昔の彼女のそれとセピア色に重なり、彼女の瞳の色は変わらず以前のままだと知る。
胸の中をざわつかせるこの感情に名前を付けるのならば、それはきっと恋だとかそういった甘いような苦いようなもので、忘れたつもりでいた燻りが未だ俺の中にあったのかと自分でも驚いた。
「…っくしゅ」
子猫のようなくしゃみをした彼女がぶるりと身を震わせ、夏になりきらない白雨が貼り付いた衣服から彼女の体温を奪っているのを思い出すとシルクは腕を差し出し立ち上がるよう彼女を促した。
シ「あのさ、もう少し話がしたいって言ったら、それは叶うんかな」
「それは…私か絹張くんかどっちかの家で、ってこと？」
視線を外し唇を歪めて肩を竦める俺に彼女が肩の力を抜いたように笑い、遠慮がちに差し出した腕をとると銀糸のように細降る雨を見上げるように天を仰いで、そっと触れたままの掌を解くこともなく真っ直ぐな瞳で俺の顔を覗き込んだ。
「どうしようかな。絹張くんって、送り狼だから」
そう笑う彼女はやはりあの頃のように澄んでいて、一度彼女を連れ去られている俺は音を飲みすべてを包み込もうとする雨を睨み、彼女を連れ去られる前に早く夜が明ければいいと、そう思ったんだ。
―The original bill is Hirai. Special thanks.
―2019.06.19©月雲
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月雲(プロフ) - coyumaさん» coyumaさん、読んでくださってありがとうございます。柔軟な包容力で愛してくれそう、と書いたのでそれが伝わって嬉しいです。また来年もお付き合いくださいね。 (2019年12月31日 0時) (
レス) id: 27315dcb3c (このIDを非表示/違反報告)
coyuma(プロフ) - モトキくんの柔らかな包容力を堪能できました！ほろりと幸せな気持ちになれました。 (2019年12月30日 16時) (レス) id: 96592c7e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月雲 | 作成日時：2019年6月19日 23時
